2024年5月1日(水)

2024年米大統領選挙への道

2023年6月12日

 今回のテーマは、「2024年米大統領選挙ーーフロリダ州が米国と世界を変える?」である。クリス・クリスティー東部ニュージャージー州元知事、マイク・ペンス元副大統領とダグ・バーガム中西部ノースダコタ州知事が、共和党大統領候補指名争いに参戦した。米ABCニュースによると、これで主要候補は12名に達した。しかし、指名争いはドナルド・トランプ前大統領とロン・デサンティス南部フロリダ州知事の2人の戦いになる可能性が高い。

 フロリダ州を地盤に持つトランプ前大統領ないしデサンティス知事が、ジョー・バイデン大統領を破った場合、米国と世界にどのような影響を及ぼすのだろうかーー。

(grynold/gettyimages)

保守化するフロリダ州

 フロリダ州では16年と20年の米大統領選挙で、トランプ前大統領が勝利を収め、18年と22年の知事選では、デサンティス知事が勝利した。同州は、激戦州から赤い州(赤色は共和党のシンボルカラー)ないしピンク色の州(やや共和党寄りの州)へ変化したとみてよい。その主たる理由は、保守派の移住による人口増加と、新型コロナウイルス禍におけるデサンティス知事の政策にあると言われている。

 米国勢調査局によれば、フロリダ州の居住者人口は2224万4823人(22年7月1日時点)である。20年4月1日の居住者人口と比較すると、70万6636人増加した。人口の急増に伴い、共和党の有権者登録者数も増えた。フロリダ州タラハシー(州都)の州政府事務所によると、共和党の有権者登録者数は530万7574人、民主党は483万4794人であった。共和党が民主党を約47万人上回っている(23年4月30日時点)。

 ちなみに、12年米大統領選挙でバラク・オバマ大統領がフロリダ州で勝利したときは、有権者登録者数で民主党が共和党を約55万人もリードしていた。にもかかわらず、民主党は逆転されてしまったのである。

 新型コロナウイルス禍でデンサティス知事は、ロックダウン(都市封鎖)およびマスク着用に反対して経済を優先し、他州よりも早く学校を再開した。講演の際、同知事はマスクを着用していた学生たちに向かって、「ばかげている」と強い口調で非難したこともあった。

 同知事は、政府から指示命令を受けるのを嫌う米国民の「自由」という価値観に基づいたコロナ対策を打ち出し、保守派から支持を勝ち取り、フロリダ州を全米における保守派の「メッカ(聖地)」に変えたのである。

トランプとデサンティスの米国

 共和党大統領候補指名争いの支持率で、首位を走るトランプ前大統領と、2位のデサンティス知事の政策を比較すると、特にジェンダーと人工妊娠中絶で同知事は、より過激な政策を打ち出している。以下でみていこう(図表)。

 まず、21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件である。トランプ前大統領は第47代大統領に就任したら、起訴された支持者に恩赦を与えると約束した。加えて、彼らに対して謝罪をするとまで語った。

 一方、デサンティス知事も恩赦を出すと述べた。同知事の狙いは、議事堂襲撃事件の参加者に理解を示して、トランプ前大統領からトランプ支持者の票を奪い取ることである。

 次に、LGBTQIA+(性的少数者 Lesbian女性の同性愛者, Gay男性の同性者, Bisexual 両性愛者, Transgender 身体的性別と自認する性別が一致していない人, Queer 自身の性自認や性的指向が定まっていない人, Intersex男性と女性のどちらにも認知できる人, Asexual他者に対して性的欲求を持たない人)である。デサンティス知事は、フロリダ州で「性の多様性」を容認しない法案を成立させた。

 また、同知事はフロリダ州の公立大学において実施されているDEI(Diversity多様性, Equality平等, Inclusion包摂)プログラムへの補助金を止める法案にも署名した。DEIプログラムは、公立大学における学生と教職員の多様性を促進する。

 しかし、同知事は「多様性促進プログラムは人種の分断を強化し、リベラル主義を活性化させてしまう」と反論して、DEIを「Discrimination差別, Exclusion排除、Indoctrination教義」と呼んで非難した。

 さらに、デサンティス知事はウォーク(差別問題や人権問題に対して意識が高いこと)に反対の立場をとり、「左派を潰して、ウォークイデオロギーを歴史のごみ箱に入れる」「性自認ついて学びたいなら、(カリフォルニア州)バークレー校へ行け」と言い放った。これらの発言は、明らかにLGBTQIA+を悪玉に仕立てて、キリスト教福音派を含んだ保守派の票獲得を狙ったものである。

 だが、デサンティス知事のLGBTQIA+を標的にしたこの戦略は、リスクが高いと言わざるを得ない。というのは、米国社会ではLGBTQIA+との遭遇は、非常に身近な出来事になっているからである。

 雑誌エコノミストと調査会社ユーゴヴの共同世論調査(23年5月27~31日実施)によれば、米国民の30%が「家族に性的少数者がいる」と回答した。同性婚に関しては、15%が「家族に同性婚をした者がいる」と答えた。

 また同調査では、「今日、米国では身体的性別と自認する性別が一致していない人に対してどのぐらい差別があると思いますか」という質問に対して、46%が「多いにある」、28%が「少しある」と回答し、「ある」の合計が約75%に上った。 

 たとえ、デサンティス知事が共和党大統領候補指名争いを勝ち抜いたとしても、本選で民主党支持者や無党派層から強い反発を受けるのは必至である。

 これに対して、トランプ前大統領はデサンティス知事のようにLGBTQIA+を攻撃して、大統領選挙の主要な争点にしていない。


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