2024年12月3日(火)

2024年米大統領選挙への道

2023年4月5日

 今回のテーマは、「『トランプ起訴のドミノ現象』は起こるのか?」である。米メディアは3月30日(現地時間)、東部ニューヨーク州の大陪審が元ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ氏(本名 ステファニー・クリフォード)に「口止め料」を支払った問題に関して、ドナルド・トランプ前大統領を起訴したと報じた。

 2024年米大統領選挙への出馬宣言を行い、現時点で共和党大統領候補の中でトップランナーであるトランプ前大統領は、この起訴をどのように利用して支持者の士気を高め、結束を図るのか。一方、トランプ氏の強力なライバルと目されるロン・デサンティス南部フロリダ州知事は、今後、共和党支持者に対してどのようなメッセージを発信して対抗するのか――。

3日、ニューヨークに到着し、マンハッタンのトランプタワーに入るトランプ氏

不倫の「口止め料」を立て替えさせたトランプ

 まず、今回のトランプ起訴の経緯を簡潔にまとめてみよう。マイケル・コーエン元顧問弁護士によれば、事の始まりはthedirty.comと呼ばれるブログおよび雑誌ライフ・アンド・スタイル(Life&Style)が、トランプ前大統領が06年、ダニエルズ氏と性的関係を持ったと報じたことである。トランプ前大統領を「ボス」と呼び、「盲目的な忠誠心」を示したコーエン元顧問弁護士は、同前大統領の指示により、不倫報道をもみ消す目的で、16年米大統領選挙投開票日(11月8日)直前の10月27日、彼女に13万ドル(約1700万円)の「口止め料」を支払ったと証言した。この時点で、口止め料の支払いが発覚していれば、選挙結果に多大な影響を及ぼす「オクトーバー・サプライズ(10月の驚きの出来事)」になっていたかもしれない。

 コーエン元顧問弁護士は、トランプ一族が経営する不動産会社トランプ・オーガニゼーションのアレン・ワイセルバーグ元最高財務責任者(CFO)と支払い方法について協議した結果、自分が口止め料を立て替えることになったことも明かした。その上でコーエン氏は、トランプ前大統領はこれらの事実を知っていると主張した。

 トランプ起訴後に行われた米公共ラジオ(NPR)とのインタビューの中で、コーエン元顧問弁護士はトランプ前大統領の心境について問われると、「苛立ち」と「激怒」と語った。

 今回のトランプ起訴は、コーエン氏が立て替えた口止め料を、トランプ・オーガニゼーションが弁済したが、その際、「弁護士費用」として不正に会計処理をした疑惑に関するものであるとみられている。

「ドナルド・トランプ」で変わる米国民の回答

 ただ、米国民は党派を問わず、選挙結果に影響を与える口止め料そのものを犯罪と考えている。

 雑誌エコノミストと調査会社ユーゴヴの共同世論調査(23年3月19~21日実施)によれば、選挙結果に影響を及ぼす口止め料の支払いに関して、全体で69%が「犯罪である」、14%が「犯罪でない」と回答し、「犯罪である」が「犯罪でない」を55ポイントも上回った。党派別にみると、共和党支持者の60%、民主党支持者の81%が「犯罪である」と答えた。

 ところが、「2006年に性的関係を持ったとされるポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏に口止め料を支払った問題に関して、ドナルド・トランプ氏は刑事責任を問われるべきか」という質問に対して、共和党支持者の63%が「問われるべきではない」と回答した。一方、民主党支持者の77%が「問われるべき」と答えた。

 質問内容に「ドナルド・トランプ」と明記すると、党派色の強い回答に変わってしまう。トランプ前大統領を擁護する共和党と、彼に刑事責任を負わせたい民主党の対立構図が鮮明になるのだ。

トランプの「民主主義と法」に対する挑戦

 自身の起訴を予測したトランプ前大統領は3月25日、24年米大統領選挙への出馬宣言後、初めての大規模集会を南部テキサス州ウェイコで開催した。なぜ、この場所を選択したのか。

 もちろんテキサス州は、民主・共和両大統領候補にとって大票田であることは間違いない。注目すべきはウェイコである。

 ウェイコは1993年、カルト集団と米連邦政府が衝突し、銃撃戦になり76人の信者が死亡した「抵抗」の象徴的な場所である。トランプ前大統領は、この銃撃事件から30周年を迎えたウェイコを選んだ。

 その狙いは、陰謀論を展開するQアノンの信者に「司法機関を政治的な武器にして、私(トランプ氏)を起訴するバイデン政権に立ち向かえ」というメッセージを送ることではなかったのだろうか。

 実際、トランプ前大統領は「自分を起訴すれば、死者が出て破壊行為を招く」と、自身のSNSで発信して警告した。加えて、バイデン政権による「魔女狩り」「司法機関の武器化」並びに「政治的迫害」といった攻撃的な言葉を繰り返し使い、支持者に訴える。その理由は「選挙戦略」と「被害者意識」の双方であるかもしれないが、いずれにしても彼らに対して暴力を煽っていることは確かだ。

 トランプ前大統領には、21年1月6日に発生した米議会議事堂襲撃事件に関して反省をしている様子は全く見られない。むしろ、暴力により「民主主義と法」に挑戦する決意を示していると言わざるを得ない。

 米国の「分断」は、トランプ前大統領によって暴力を伴った「非民主主義と違法」という異次元の世界へ突入した。


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