2024年5月7日(火)

2024年米大統領選挙への道

2023年4月5日

トランプの「小道具」と演出

 第4に、被害者を演出する「小道具」である。トランプ前大統領は容疑者として指紋を採取されたが、顔写真は撮られなかった。しかし、米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ陣営は「無罪」と偽の「顔写真」を印刷したTシャツを販売した。

 20年米大統領選挙の民主党予備選挙でバーニー・サンダース陣営は、サンダース上院議員が21歳のとき、公民権運動に参加して逮捕された写真を、選挙運動のTシャツに使った。この写真が印刷されたTシャツは、サンダース支持者の士気を高めた。トランプ前大統領の顔写真も、支持者の結束とモチベーションを高める小道具になり得る。

 また、手錠も小道具になることは確かだ。トランプ前大統領は手錠をかけられなかったが、衝撃的な小道具を用いて、自分に最も忠誠心がある「永遠にトランプ(Forever Trump)」支持者と、同前大統領を支持するが他の候補を選択するかもしれない支持者に対して、自身を被害者として演出する戦術が考えられる。

24年米大統領選挙への影響

 トランプ起訴は、次期大統領選挙にどのような影響を与えるのか。短期的に見れば、今回の起訴は共和党予備選挙において、「結束」「自分への注目度」並びに「寄付金」の面で、トランプ前大統領に有利に働くかもしれない。ちなみに、米メディアによれば、トランプ前大統領は起訴後の4日間で、700万ドル(約9億2900万円)の資金調達に成功した。

 しかし、長期的には本選で勝利の鍵を握る無党派層および郊外に住む女性の票が逃げ、結束の維持が困難なので、不利に働く―これが一般的な見方である(図表2)。

 確かに、無党派層と郊外の女性はトランプ前大統領から離れていくだろう。ただ、筆者は別の見方もしている。

 上で触れたジョージア州での選挙介入および、米連邦議会議事堂襲撃事件とホワイトハウスからの機密文書持ち出しに関しても、捜査が進んでいるとみられている。来年になると、民主・共和両党の予備選挙が始まる。予備選挙の最中にトランプ前大統領を起訴すれば、選挙結果に多大な影響を与えることは必至であり、「不公平だ」という非難の声が上がる。そこで、上記の3件について起訴するか否かの決定を年内に下す可能性がある。

 トランプ前大統領とジョージア州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官の電話協議を録音したテープの一部は、すでに公開されている。加えて、同前大統領が支持者に米議会議事堂に向かうように促した演説の映像も存在する。ホワイトハウスから私邸マーラ・ア・ラーゴに持ち出した大量の機密情報の一部の写真も公開された。

 これら3件に関しても起訴され、「トランプ起訴のドミノ現象」が起こる公算は大きい。しかも、3件は今回の起訴よりも深刻な罪状になると言われている。

 仮にそうなれば、デサンティス知事は、自分をトランプ前大統領と政策が同じで、起訴の可能性がない「安全な候補」として自分を描くことができる。トランプ前大統領の「代替者」としてMAGA共和党にアピールする(図表3)。同知事は内心、トランプ起訴のドミノ現象が起こり、選挙の流れが変わるのを期待しているのはないだろうか。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る