2023年11月30日(木)

2024年米大統領選挙への道

2023年4月22日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「トランプ起訴とデサンティスの巻き返し戦略」である。2024年米大統領選挙の行方は、トランプ起訴により不透明感が増してきた。

 ニューヨーク大陪審に起訴されたトランプ前大統領は、南部ジョージア州での大統領選挙結果への介入、米連邦議会議事堂襲撃事件における扇動および機密文書持ち出しの3件の中で、どの案件から逃げるのが最も困難であるとみているのか。逆に、起訴を免れようとしている案件はどれか。

 また、支持率でトランプ前大統領に大きく水を開けられたロン・デサンティス南部フロリダ州知事は、どのような選挙戦略で巻き返しを図ろうとしているのかーー。

4 月 19 日、サウスカロライナ州スパータンバーグで演説するデサンティス氏(AP/AFLO)

トランプの「0勝4敗」か?

 トランプ前大統領は、上記の3件においても起訴される可能性があるとみている。それは、起訴後に南部フロリダ州にある私邸マーラ・ア・ラーゴで行った演説内容から読み取ることができる。

 演説の中で、トランプ前大統領はジョージア州務長官に電話を入れ、選挙結果を覆そうとした件について、「完璧な会話であった」とだけ述べて正当化した。おそらく、州務長官に圧力をかけたトランプ氏の音声が、揺るぎない証拠として残っているので、これ以上語れないのだろう。

 一方、支持者を首都ワシントンに集めて米連邦議会議事堂に向かわせた件には触れなかった。議事堂襲撃事件では、扇動やほう助に加えて、虚偽の選挙人名簿提出といった確固たる証拠があるので、乗り切るのが最も困難であるとみているフシがある。

 これに対してトランプ前大統領が演説で時間を費やしたのは、ジョー・バイデン大統領の機密情報持ち出し問題であった。同前大統領は、米司法省と連邦捜査局(FBI)の捜査に即座に応じたと述べ、「彼らは私のパスポートと医療記録を持ち去った」と明かして、自身を「被害者」として描いた。

 その上で、トランプ前大統領は「バイデンは機密情報が入った箱を(ワシントンD.C.の)中華街に移動した。なぜ中華街なのか」と支持者に問いかけた。

 トランプ氏は明白な証拠なしに、バイデン大統領が機密情報を中国に渡したというメッセージを発信したのである。加えて、バイデン氏が機密文書を中華街に移して、捜査妨害を行ったというメッセージも支持者に送った。

 トランプ前大統領はバイデン大統領と中国を結び付けて、「捜査妨害をしたのは、実は私ではなくバイデンの方である」というストーリー(物語)を作り、自分がホワイトハウスから大量の機密文書を私邸に持ち出した問題を乗り越えようとしている。

 ただ、トランプ前政権のウィリアム・バー前司法長官は米ABCニュースとのインタビューで、「機密文書は政府のものであり、(トランプ氏は)政府をはぐらかした。捜査妨害である」と指摘し、トランプ前大統領が起訴される公算が高いことを示唆した。つまり、トランプ氏はニューヨーク大陪審に起訴された1件に残りの3件を加えて、全ての疑惑で起訴され「0勝4敗」になる可能性があるのだ。


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