デサンティスの「ディズニーたたき」
トランプ前大統領は、皮肉にもニューヨーク大陪審に起訴されて支持率を上げた。同前大統領に支持率で引き離されたデサンティス知事は、どのようにして挽回を図るのか。
一言で言えば、「右からさらに右へ」である(図表1)。デサンティス知事は、トランプ前大統領よりも過激で右寄りの政策を打ち出して、米国の宗教別人口の約4分の1を占め、聖書の記述に忠実なキリスト教福音派の票を、同前大統領から奪い取ろうとしている。
まず、これまで以上に「ディズニーたたき」に力を入れることは間違いない。デサンティス知事の地元フロリダ州にはウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートがある。同知事はディズニーがアニメ作品の中に、「LGBTQ(性的少数者)キャラクター」を加えたことを強く批判した。
「性の多様性」を否定して、トランプ前大統領の支持基盤であるキリスト教福音派の票を獲得する意図がはっきり見える。
デサンティス知事は自伝『自由への勇気 アメリカ再生のためのフロリダの青写真』の中で、「ディズニーはフロリダ州に住む家族に宣戦布告した」「ディズニーはフロリダ州にある他の企業にはない税の優遇措置を得てきた」「(LGBTQに配慮するために)ディズニーの幹部は、レディース、ジェントルマン、ボーイ、ガールという言葉をテーマパークで使用しないように議論している」など、反ディズニー色の強い議論を展開した。
デサンティス知事は、学校でLGBTQに関する教育を制限する「ゲイと言わないで」法案に反対するディズニーとの対決姿勢をより鮮明にして、トランプ前大統領支持のキリスト教福音派にアピールしていくと考えられる。
デサンティスの「過激な人口妊娠中絶禁止」法案
次に、デサンティス知事は人口妊娠中絶反対の立場を鮮明した。フロリダ州では妊娠6週間以降の人口妊娠中絶を禁止する法案に署名した。同知事は昨年、妊娠15週間以降の中絶を禁止したので、さらに厳しい措置を講じたことになる。
これに対して、反対派から妊娠6週間では、女性は自分が妊娠をしているのか分からないという批判の声が上がった。しかし、デサンティス知事は妊娠20週間や15週間以降の人口妊娠中絶禁止ではなく、より強硬な姿勢を示すことによって、ここでもキリスト教福音派の票を狙ったものとみられる。
ただし、共和党は何週間後に人口妊娠中絶を禁止するのかについて、党として統一したメッセージを打ち出せないという問題に直面している。さらに、デサンティス知事の過激な人口妊娠中絶禁止法案は、共和党予備選挙並びに党員集会でキリスト教福音派に支持されるかもしれないが、本選で無党派層および郊外に住む女性の票が逃げるリスクが高い戦略であることも看過できない。前述した反LGBTQの政策もそうだ。
にもかかわらず、デサンティス知事は自伝の中で、フロリダ州を成功事例として取り上げ、「アメリカをフロリダにする」と主張した。言い換えれば、アメリカをかなり右よりにするという意味になる。