2024年5月18日(土)

WEDGE REPORT

2023年6月22日

 こうしたPKK対策、難民対応を実行するため、トルコ政府はシリアのアサド政権との関係正常化を視野に入れている。両国は11年3月のシリア内戦勃発後、関係が悪化し、同年10月に関係を断絶していたが、22年末から関係の改善に向けた動きが見られ始めた。

大統領選挙後のトルコ外交
注目は湾岸諸国とスウェーデン

 エルドアン大統領の再選が決まった中、外交はどのように変化するのだろうか。結論から言うと、これまで通り、トルコはその地政学的な特性や安全保障上の脅威に対抗するため、全方位外交を基軸とするとみられる。もし大統領選挙でクルチダルオール氏が勝利していたとしても、その基軸は変化しなかっただろう。もちろん、全方位外交といっても全ての隣接、近隣する国と等しく関係を築いたり、対応したりするわけではなく、重視する国や地域には濃淡があり、それは時代とともに移り変わる。その意味で、大統領選挙後に注目されるのは湾岸諸国とスウェーデンのNATO加盟承認である。

 エルドアン大統領は、決選投票の数日前に停滞する経済のテコ入れとして、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国からの融資を受けることが可能であると発言している。事実、ここ数年、三国とは通貨交換(スワップ)協定を結んでいる。

 カタールとは07年以降、安全保障分野を中心に関係を深化させてきた。経済分野でも良好な関係で、18年8月にスワップ協定を締結、24年までの延長が決まっている。

 10年代後半、エルドアン大統領主導の外交はカタール断交下でのカタール支援、ムスリム同胞団への支援などで中東地域において孤立を深め、とりわけUAEとサウジアラビアとの関係が悪化したが、21年以降、両国との関係改善が進んだ。

 UAEとは21年11月にヘルスケアとエネルギー分野に100億ドルを投資する協定を、22年1月には約54億ドルのスワップ協定を締結した。23年に入っても両国間の関係強化は続き、3月に自由貿易協定(FTA)を締結している。

 サウジアラビアとは、サウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏殺害事件で対立が深まったが、21年5月にメッカで両国の外相会談が実現したのを手始めに、22年4月にはトルコ国内でのカショギ事件の審理を停止し、審理をサウジアラビアに移管することを発表するなど関係も好転している。23年3月には両国間で約50億ドルのスワップ協定を締結、さらにはトルコ・サウジアラビア・ビジネスフォーラムが実施され、3つの貿易協定が締結された。

 スウェーデンのNATO加盟承認に進展があるかは今後のトルコと欧米の関係を推し量る試金石となるだろう。トルコがスウェーデンのNATO加盟承認を渋っている理由は、PKKおよび16年7月15日のクーデター未遂事件を引き起こしたとみられているイスラームの新興宗教組織である「ギュレン運動」の関係者がスウェーデンで活動しているからであり、トルコ政府は両組織の関係者の引き渡しを求めている。右傾化しているエルドアン政権がこの問題でどこまで妥協するのかが焦点となる。普通に考えれば承認は困難だが、選挙が終わったこともあり、また、全方位外交の観点からPKK関連組織の活動停止などを妥協点として翻意する可能性も十分考えられる。


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