2024年12月3日(火)

WEDGE REPORT

2023年6月22日

 2023年5月28日にトルコで大統領選挙の決選投票が行われ、現職のエルドアン氏が52%の得票率を獲得し、野党6党連合の候補であるクルチダルオール氏を振り切って勝利した。

欧米が主導する国際秩序形成に不満を抱くエルドアン氏。再選後のトルコ外交の行方は……(REUTERS/AFLO)

 トルコではエルドアン支持者と反エルドアン支持者の間の分極化が進んでいる。エルドアン陣営は国民を二分するポピュリスト的な戦略をとったため、敗れた野党陣営の支持者の落胆は大きかった。ただし、5月14日の大統領選挙で世論調査では有利といわれていたクルチダルオール氏が勝利できなかった時点で、野党陣営の支持者は敗北を覚悟していたようだった。そのため、決選投票翌日の5月29日は野党支持が優勢だったアンカラはひっそりと静かであった。

 今回のトルコの大統領選挙では外交について争点になることが多かった。その要因は二つある。一つは、国際政治におけるトルコの重要性の高まり、もう一つはシリア難民の帰還や対テロ対策である。これらは外交と密接に結びついていた。

 トルコの国際政治上での重要性の高まりはロシアのウクライナ侵攻に関連している。トルコは両国の間で積極的な仲介を行い、22年3月10日にアンタルヤで侵攻後初の両国の外相間会談、同年7月に国連とトルコがロシアとウクライナを説得する形でウクライナの小麦の輸出を可能にする穀物合意が実現し、現在に至るまで延長が繰り返されている。一方、フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する中、トルコは両国の加盟承認に難色を示した。フィンランドに関して、トルコは今年3月末に承認したものの、スウェーデンについては承認に至っていない(6月5日時点)。

 次に、対テロ対策とシリア難民の帰還についてである。エルドアン大統領率いる公正発展党は01年の結党以降、「親イスラーム政党」とみなされてきた。しかし、16年7月15日のクーデター未遂事件以降、トルコ人というアイデンティティーを前面に押し出すようになり、さらに右派政党の民族主義者行動党と密接な協力関係を築いた。トルコ人というアイデンティティーを危機に晒すテロ組織に対して、断固とした対応をとるようになり、15年7月まで和平交渉を行っていた非合法武装組織、クルディスタン労働者党(PKK)に対しても一切の妥協を見せなくなった。

 特にトルコが危惧したのが、「イスラーム国」対策で米国から武器の供与を受けた北シリアのクルド民族主義勢力である。トルコ政府は北シリアのクルド民族主義勢力とPKKを同一組織とみている。そのため、これまで北シリアに4度の越境攻撃を行っている。

 また、現在トルコに340万人ほど在住しているシリア難民をシリアに帰還させるという点も与野党ともに選挙戦で言及した。もちろん、難民を強制的に帰還させるのではなく、帰還時の安全を保障することが不可欠である。


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