2024年5月20日(月)

Wedge OPINION

2023年8月10日

 岸田首相が秋本氏に対して説明責任を果たすよう促すことなく、「政策実行に支障がないよう政府一丸で取り組んでいかなければならない」(8月6日、広島平和記念式典後の記者会見)などと通りいっぺん、危機感がほとんんど感じられないコメントで済ませていることも残念だった。

 もっと驚いたのは、公明党の山口那津男代表のコメントだ。「秋本氏に言い分があれば捜査の中で明らかにしてほしい」(読売新聞8月7日朝刊4面)という発言が事実なら、検事に真相を話せば国民への説明は必要ないとも聞こえる。与党の一角を担う政党の党首の言葉とはとうてい思えない。

木原氏への不可解な官房長官のコメント

 木原氏をめぐる疑惑は、週刊文春が7月13日号から連続で報じた。

 本人が否定、捜査当局も事件性なしとしているので、文春報道を詳細に引用するのは適当ではない。要約すれば、木原夫人が前夫の変死に関して警視庁の事情聴取を受けたものの、木原氏の圧力によって「自殺」として捜査が打ち切られたということらしい。週刊文春は、夫人の聴取に当たった元警視庁捜査一課の取調官を登場させ、他殺説を展開している。

 渦中の副長官は文春を刑事告訴し、7月以来、毎日受けていた記者団の取材を中断。夫人は日弁連に対して人権救済を申し立てた。首相が同月に欧州、中東を歴訪した時は慣例を破って同行せず、官邸に登庁する際も、裏口からこっそり入っていると伝えられる。

 この問題に対する首相官邸の対応も理解に苦しむ。

 松野官房長官は7月28日の記者会見で、「木原氏から一連の報道に関し『私が捜査に圧力を加えたとの指摘は事実無根だ』との報告を受けた」として、「これ以上の対応を求めることは考えていない」と述べ、説明責任を促す考えのないことを強調した。

警察庁長官は疑惑を否定、木原氏は……

 過去の議員、政府高官のスキャンダルをみても、国民に対する説明責任を果たさず、逃げ回ったケースは少なくなかった。

 検事による供述誘導が明らかになった河井克行元法務相の選挙違反事件では、衆院本会議の際に記者団に囲まれるなど機会は何度もあったが、河井氏は「捜査中」「弁護士からとめられている」などを理由に真相を語ることから逃げ続けた。

 鶏卵汚職で有罪を受けた吉川貴盛元農林水産相もそうだった。

 地元有権者への寄付、秘書による支援者通夜への香典持参などで公選法違反に問われ議員辞職した菅原一秀経済産業相も、大臣辞任会見でわずか4分間、経緯を説明したにとどまった。

 木原氏の行動は、これらスキャンダル議員のそれとまったく同じに映ってしまう。しかし、氏の状況はおのずと異なる。

 不祥事議員たちは、脛に傷があるから、釈明の場に出てくることができなかったのだろう。対して、木原疑惑については、警察庁の露木康浩長官が「適正に捜査が行われた結果、事件性は認められない」と説明し、同庁刑事局幹部も圧力を明確に否定している。それだけに、木原氏がなぜ説明を躊躇するのか、不可解というほかはない。


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