チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年9月2日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

 「公共企業家」が中国で「静かに」ではあるが、存在を示し始めている。社会問題の解決に積極的に関わり、公共空間の形成に貢献する企業家のことだ。同様の活動に励む「公共知識人」はよく聞く言葉だが、「公共企業家」はあまり耳にすることがなかったもしれない。一部の企業家が公共企業家を自称したり、メディアが公共企業家を取り上げたりするようになったのはごく最近である。ビジネスの成功によって注目される企業家たちは強力な発信力を持っており、特にインターネットを駆使して世論に大きな影響を与えるようになった。腐敗が当たり前のように横行する社会の荒廃ぶりを悲観し、市民運動を核とする変革を訴える企業家もいる。

自らの在り方や身の置きどころを
探そうとする企業家たち

 しかし、こうした動きは大々的に広がっているわけではなく、「静かに」進んでは後退し、また進むという状態だ。中国の進める社会主義市場経済は自由で公平な競争を阻害する傾向を強めており、国有セクターを優遇する政策の下、民営企業は苦戦を強いられている。党・地元政府の幹部との関係作りが重視され、いやがおうにも政権との癒着を迫られる。いやひどい場合には、政権と一体化してしまうような環境の下で、企業家は政治に口を出すことは極力避けてきた。

 規制にとらわれず、人間関係のネットワークを利用し、小さな投資でも大きくチャンスを拡大していくことが中国ビジネスのダイナミズムであり、それによって人材が生まれ、産業が発達した側面は否めない。だが、金銭や人間関係をめぐるトラブルで地元有力者の恨みを買えば、「グレーゾーン」で活動していた企業家はたちまち犯罪者に祭り上げられる(過去に本サイトで紹介した呉英馮永明のケースはそうであった可能性が考えられる)。

 また、政策が急に変更になったり、今まで懇意にしていた幹部が更迭されたりし、企業の形勢が急に不利に転じることも少なくない。さらに、昨今中国の経済・政治情勢は非常に不安定であり、先行きも不透明だ。そんな中、企業家は社会の広い範囲にアンテナを張り、変化を見極めながら、自らの在り方や身の置きどころを探そうとしている。

企業家コミュニティ「正和島」

 企業家の立場や思惑は複雑だ。最近、話題になっている「正和島」に関する一連の騒動がそうした状況を露わにしており、非常に興味深いのでここでまず紹介したい。

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