2024年5月21日(火)

Wedge REPORT

2023年10月12日

 結果を言えば、9月15日に賠償金の請求を受けた教員および校長は粛々とその全額を納付した。今回の事案は学校のミスであったことは間違いないし、校長として金額を払うことよりこのような騒ぎになることの方が辛いはずだ。

 校長は市教委を通じて「学校を静かに見守っていただきたい」という意のコメントを発表しているがその心情がよく分かる。

プール管理は教員の仕事なのか

 さて、この騒ぎについては色々な視点から問題点が指摘されている。特に目を引いたのは、ネットに寄せられた意見の中でも多かった「プール管理は教員の仕事なのか」という労働問題の視点であろう。

 教員の職務については法により「教諭は、児童の教育をつかさどる」(学校教育法第37条)と明記されている。つまり、児童生徒の学習指導や生徒指導が教員の本来の仕事であるし、これだけでも膨大な業務量である。

 よく小学校の低学年を担任すると膀胱炎になるというが、トイレに行く暇もないのだ。普通公務員なら休憩時間があるだろうが、教員の場合は給食指導があるため休憩時間など無いに等しい。その上、昨今はアレルギー問題も多々あることから神経をすり減らして対応しなければならない。

 それでなくてもこの数十年間教員の業務は雪だるま式に増えてきており、日本の教員の残業時間が過労死ラインを超えている割合は経済協力開発機構(OECD)加盟国でも最長であることはよく知られた話だ。そうした勤務状況下で授業の合間にプール管理までやらされてヘマをしたから給料の3カ月分を差し出せというのは、どう考えても理に合わない。

 しかし、である。中央教育審議会の「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」資料では、教員の仕事には「職務」と「校務」があるとされている。職務とは本来教員が「果たすべき任務・担当する役割」で、先ほどの学習指導等がそれにあたる。校務とは学校全体の仕事を指し、施設設備の管理面はこれに含まれる。

 それぞれの校務を誰がやるのか。教員の服務監督者は市町村教育委員会(地行法第43条)であり、教員は「市町村委員会その他職務上の上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」(同)とされているから、法的にはプール管理も市町村教育委員会に教員の校務だと決められてしまえばやらなければならない、ということになる。

 ただ、それは正しいのだろうか。単純にプール管理など、ある程度専門性を有する校務は業務に押しつぶされそうな教員ではなく、業者に委託すべきだと筆者は思う。

 読者はPTA奉仕作業というのをご存じだろうか。教職員と保護者が協働して学校をきれいにする取組である。また日々の学校施設の清掃も児童生徒と教員が行っている。だが、市役所を毎日職員が掃除しているという話はあまり聞いたことがない。

 学校も市役所も設置者は同じ市である。学校だけが清掃はもちろん、危険なプール管理まで自分たちでやらされて、ミスをしたら罰金を取られる。なぜこんなにも対応が違うのか。不公平感を感じるのは筆者だけなのだろうか。


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