2024年5月14日(火)

World Energy Watch

2023年10月24日

 さらに、今般のガザ情勢に連動してイスラエルとレバノンのヒズボラ間の軍事衝突も起きたことで、イスラエルのガス田開発全体が悪影響を受けるだろう。イスラエルとレバノンの係争中の海域には、イスラエルが開発を進めるカリシュ・ガス田(ハイファ沖80キロメートル)がある。両者の対立激化がイスラエル権益への攻撃の活発化につながると予想されるため、同ガス田がヒズボラによる更なる海上攻撃を受け、開発事業が中断に追い込まれる可能性がある。

情勢悪化で原油価格は上昇

 イスラエルの軍事行動を受け、イランの「代理勢力」であるシーア派民兵が中東各地で武装活動を活発化させている。代表的な組織はレバノンのヒズボラ、イラクの人民動員、イエメンのアンサール・アッラー(通称フーシー派)である。

 10月19日、シリアやイラクに駐留する米軍を狙った無人機攻撃が相次いだ。シリアは南東部のタンフ基地や東部コノコ・ガス田の基地、イラクは北部エルビルにあるハリール基地やバグダード国際空港付近の基地などが攻撃を受けた。

 さらに同日、イエメンからイスラエルに向けてミサイル4発と無人機12機ほどが発射され、米海軍の艦艇が全てを迎撃した。一連の攻撃は、イランの代理勢力によるものであるとされる。

 パレスチナ情勢の緊迫化は国際原油価格の推移にも影響している。原油指標の1つ、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、ハマスの奇襲前(10月6日)に1バレル当たり82ドルであったのが、攻撃後の9日には86ドルに上昇した。その後、一旦は下落したものの、油価は再び上昇し、19日には90ドルを上回った。

 原油価格の変動はいくつかの要因から引き起こされる。米ミシガン大学経済学部のLutz Kilian教授は09年に油価変動を、(1)供給要因、(2)実体経済の総需要要因、(3)地政学リスクとしての原油市場特有の変動要因(将来の供給停止といった不確実性に起因する事前予防的な需要)に分類した時系列分析モデルを提示した。

 また、日本銀行が16年に発行したワーキングペーパーでは、Kilianモデルを拡張させ、金融要因や将来の需要・供給に対する期待要因を考慮したモデルが提示された。

 今回のイスラエル・ハマス間の攻防は、主要産油地ではない場所で展開しているため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国の原油輸出に直接影響を与えている訳ではない。しかし油価が上昇する背景には、地政学リスクの観点から事前予防的な需要が生じたことがあると考えられる。

 特に米国が19日、戦略石油備蓄(SPR)の補充を打ち出した影響が大きい。バイデン政権は今年12月と来年1月に600万バレルの原油を購入し、SPRの積み増しを図る計画だ。先行き不透明な中東情勢への懸念から、早期に原油を確保しようとする動きが世界中に広がれば、油価上昇に拍車がかかるだろう。

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