2024年4月29日(月)

World Energy Watch

2023年10月24日

 パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスがイスラエルへの大規模攻撃を2023年10月7日に実施したことを受け、イスラエルがガザ地区への報復攻撃を行うなど、パレスチナ情勢が緊迫化している。こうした中、パレスチナ情勢の悪化に連動し、世界有数の石油・ガス産出地域である湾岸地域が不安定化し、国際エネルギー秩序が混乱に陥る可能性があるのかが注視される。

ハマスとイスラエルの衝突は緊迫した状態が続き、中東全体のエネルギー情勢への影響も懸念されている(ロイター/アフロ)

イスラエルの天然ガス動向への影響

 まず、パレスチナ情勢の悪化はイスラエルの天然ガス動向に影響を及ぼした。イスラエル・エネルギー省は23年10月9日、安全性の懸念を理由に南部沿岸のタマル・ガス田の生産停止を発表した。

 翌10日には、米石油会社「シェブロン(Chevron)」は、イスラエル・エジプト間の東地中海ガスパイプライン(EMG)を通じたエジプト向け天然ガス輸出を停止し、ヨルダンを経由する代替パイプラインで供給することを発表した。EMGは、イスラエル南部の町アシュケロン(ガザ地区の北約10キロメートル)とエジプト・シナイ半島の町アリーシュを結ぶ海底パイプラインである。

 エジプトは20年1月からイスラエルの沖にあるタマルおよびレバイアサン両ガス田で生産されたイスラエル産ガスを輸入している。地中海で唯一の液化天然ガス(LNG)施設を擁すエジプトは、22年6月にイスラエルおよび欧州連合(EU)と調印した覚書にもとづき、輸入したイスラエル産ガスをエジプトのLNG施設で液化した後、タンカーで欧州諸国に輸出する計画を進めてきた。

 だが、今回のタマル・ガス田での生産中断とEMGの操業停止が長期化し、イスラエルからエジプトへの輸出量が大きく減少すると予想されることから、エジプトは国内供給を優先せざるを得ず、欧州向け輸出分を十分に確保できなくなる恐れがある。欧州が22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、エネルギー面でのロシア依存の脱却を試みる中、地中海を挟んで隣接するエジプトは代替調達先の1つとして期待されていた。


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