2024年5月22日(水)

Wedge REPORT

2023年11月2日

2020年東京大会の反省をどう生かすか

 東京オリンピック2020の諸問題を経て公的組織のガバナンスと地域マネジメントの2点が主な論点になり、それが札幌オリンピックの検討において影響を与えたと思われる。

 東京オリンピック2020では、メインスタジアムにあたる国立競技場の建て替えデザインの問題、大会エンブレム盗用騒動、開閉会式の演出をめぐるさまざまなトラブルがあった。そして運営をめぐる談合事件で、東京地検特捜部が、広告大手「電通グループ」や「博報堂」など6社と、大会組織委員会の大会運営局の元次長、広告最大手「電通」のスポーツ局長補ら計7人を独占禁止法違反(不当な取引制限)の罪で起訴したという大きな問題もあった。

 また、2013年1月に東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が提出した立候補ファイルに記載されていた経費は7340億円(限定された定義内の費用)だったが、開催後に会計検査院がまとめた大会経費の調査報告では、大会運営に直接関わる経費は1兆6989億円、道路整備など関連経費も加えた総額は3兆6845億円であった。英オックスフォード大学の研究チームの調査では、1960年以降の五輪はすべて関連費用が予算を超過し、平均で2.8倍に達している。五輪開催は大幅な予算超過のリスクをはらんでいると指摘しており、76年のモントリオール大会の開催費用は予算の8.2倍、2016年のリオ大会は4.5倍だったという。

 これは「お祭りドクトリン」「祝祭資本主義」とも呼ばれ、ビッグイベントに便乗し「過大需要予測」により公共投資が大盤振る舞いされ、地元自治体の負担を累積的に膨張させるものである。こうした「祝祭資本主義」は今後も継続的に出てくるだろう。

 2023年1月8日の北海道新聞の調査では、札幌市民の52%が反対、15%がどちらかといえば反対、21%がどちらかと言えば賛成、12%が賛成だった。反対の理由を単数回答で尋ねると、札幌市民は「除雪やコロナ対策、福祉など他にもっと大事な施策がある」が48%で最多、「東京五輪を巡る汚職や談合事件で五輪に不信感が募った」の23%、「施設の整備・維持にお金がかかる」の13%が続いた。

 前述の東京オリンピックの諸問題から公的組織のガバナンスへの不信感と、地域マネジメントにおける財務面と施設面の懸念が顕在化している。しかし、これからの日本を考えると、公的組織のガバナンスと財務や施設の地域マネジメントは改善に向けて対応能力を構築する必要があるのではないか。

 スポーツ庁は「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」を23年3月に出しているが、その実践はこれからである。それができなくて不安なのでやらないというスタンスでは、いつまでたってもこれらの問題には対処できない。

 公的組織のガバナンス力と財務面での地域マネジメント力はこの後益々重要性を増すだろう。もちろん公共イベントのガバナンスや「祝祭資本主義」への対応力も、過去他のオリンピックで成功しておらず難易度は高い。

五輪をきっかけとした街の変革

 札幌市は諸々の逆風から、真摯な工夫・改善して成長する地域である。例えば、札幌市議会議員の中川賢一氏によれば、前回の札幌冬季オリンピック誘致を開始した1950年代後半は日本政府が札幌のオリンピック誘致に前向きではなく、オリンピック所管の文部省(当時)から、当初財政計画以上に国費の要請はしないという「覚書」の提出も求められている。

 それを乗り越えて対外招致活動を開始した札幌市だが、1964年の国際オリンピック委員会(IOC)総会では惨敗し、推進責任者だった原田與作市長は議会と報道陣からの激しい攻撃に遭い、札幌市政始まって以来初の不信任案が提出される事態となった。不信任案は否決されたものの、かなりの逆風だったことが想像できるだろう。しかし、その状態からさまざまな障害を乗り越えて1972年の冬季オリンピックを開催したことは皆さんがご存じの通りである。


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