世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年10月2日

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 米アジア太平洋センター安全保障研究部のMohan Malik教授が、Diplomat誌ウェブサイトに8月30日付で掲載された論説において、中国は南シナ海の約80%の海域を自分たちのものと一方的に主張し行動しているが、このような主張は朝貢・冊封時代の領域観を如実に表わしている、と述べています。

 すなわち、近代国民国家の主権概念は、1648年のウェストファリア条約の締結後にヨーロッパで生まれた。これに対し、中国の伝統的領域観は、属国に対する宗主権の考え方に起因する。そこでは、中華帝国のフロンティアは、はっきりと線引きされていなかった。文明の中心から未開の野蛮な地域へと、中華帝国の領域は自然に伸びていくものとみなされていた。昔のアジアには主権という概念はなかったから、中国がこれら属国に近代的な意味での主権を行使することはなかった。

 20世紀半ばになってから、主権の概念が中国でも浸透し、これまで、明確に定義されず、境界が画定していなかった自国の領域がはっきりするようになると、これまで単に朝貢・冊封の関係でしかなかった地域にまで中国の主権が及ぶ、との主張を始めた。「古代以来中国のものであった」という常套句は中国人に都合の良い歴史観である。

 中国は自らの錯綜した歴史を歪曲し、モンゴル、満州、チベットなどの各部族の残したものをすべて「中国人」(漢族)の残したものとしている。もともと万里の長城はモンゴル族、満州族などから漢民族を守るための防波堤であったはずだ。

 このような歴史観にたてば、過去に「中国人」が影響を及ぼした如何なる領域もすべて中国のものということになる。近代中国は国民国家ではなく、国民国家を装った帝政国家ということになる。

 南シナ海で中国が主張している海域は、それほど古い根拠によるものではなく、蒋介石政権下で1947年に作成された「11点基線」が基礎になっている。共産党政権になってから、これを基にしてトンキン湾内の二つを外して、今日の「9点基線」が作られた。国民党、共産党を問わず、伝統的に中国の支配層の中には、牢固とした「華夷秩序」の残滓が見られる。そこでは朝貢関係と現実の支配の関係は曖昧なままにされてきた。

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