2024年5月20日(月)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年11月29日

 実際、米国で問題のある取り締まり方法を採用する警察官が多い背景には、適切な訓練を行ったり、有能な人を雇用したりするための予算が欠如しているという問題があるため、警察予算剥奪というスローガンは犯罪問題の実態を踏まえていない空論として格好の批判の対象となった。実際、民主党内でもバイデン大統領や当時の下院議長であったナンシー・ペロシらは警察予算剥奪論に賛同しない旨表明していたが、保守派と共和党支持者の間では、民主党による警察予算剥奪論が法執行機関の能力を低下させたという認識が強くなった。

 今日の米国では留置所、拘置所の過剰収容問題もあり、警察も検察も犯罪者の逮捕や起訴に消極的なのではないかとの指摘もなされている。実際には、これらの部門の資金不足は共和党が予算を切り詰めたことが大きな原因となっているのだが、民主党がそれら施設に対する予算増額を積極的に取り上げないこともあり、世論の批判が共和党に向かうことは多くない。いずれにせよ、大都市部の法執行機関は市長や市議会から大きく影響を受けることもあり、都市部で優勢な立場にある民主党に批判が向かうのである。

2024年大統領選挙への影響は?

 現在では都市部での体感治安の悪化の責任を民主党とバイデン政権に帰する主張が共和党によってなされている。だが、以上述べてきたような事情を考えると、大都市圏での体感治安の悪化は、連邦政府というよりは地方政府との関連で指摘されるべきものである。

 もちろん、連邦政府が地方の法執行機関に対して財政支援を行えば問題が改善する可能性はあるかもしれない。だが、州や地方政府に対する財政援助を決める法律を制定する権限は大統領ではなく連邦議会にあるのであり、下院で多数を握る共和党がそのような支出拡大を認める可能性はほぼないだろう。バイデン大統領からすれば、不当な批判をされているという不満があるに違いない。

 大統領選挙が近づくにつれ、共和党はバイデン政権と民主党に対する批判を強めるだろうが、これは民主党にとって解決困難な課題なのである。

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