2024年5月19日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2023年12月8日

都心部にイノベーション企業や高学歴移民を迎え入れる

 都心の田の字地区で区画整理事業を行うのだ。多くの細い街路を2車線にして対面通行可能にする。町家は建て替える。高速道路を延伸して地下化し、都心の中心部まで引き込む。出入り口は京都御苑の敷地内に設ける……。

 田の字地区の価値ある町家を残すのなら、別の場所にそっくり移転すればいいと言うのだ。

「実現すれば、都心部にイノベーション企業や高学歴移民を迎え入れて、新しいスタイルの職住共存区域を作り出すことができます。新住民が、子育てしながら快適なマンション暮らしができる。過去にない産業やライフスタイルが京都から生まれるかもしれません」

 交通インフラが整備されれば、現在の都心の交通渋滞を一掃することも可能だし、田の字地区の高齢者が気軽に移動することもできる。

「いいことずくめに見えますが、有賀さんのこの提案、実現の見込みはありますか?」

「ないでしょう(笑)。私の提案は、田の字地区の区画整理事業以外は本来京都市が計画していたものの延⻑・修正版ですが、それでも実現性はとても低いと思います」

 大きな理由の一つは市が抱える財政難である。国の肩入れなしに、都心の区画整備などはできない。

「では、このまま行くと?」

「田の字地区が現状維持なら、ダラダラと際限のない観光地化が進行するでしょうね」

 都心に大規模改変がなされないとなると、町家に少し手を加えたカフェ、レストラン、小さなホテルやマンションが乱立することとなる。

「市は“歩くまち京都”と言いますが、実態は交通網の整備が進まず、“歩くしかない京都”になっています。また、観光への依存は、それで他の産業に比べて高賃金が得られるタイ国などはともかく、日本のような先進国では観光関連産業の平均賃金は他産業に比べて高くなく、決して魅力的な選択肢とはいえないと思います」

 観光地は東山区や嵯峨野などに充分あるのだから「それでいい」と言う。

「そうなると、有賀さんの提案、検討だけでもやってほしい気がしますね」

「来年2月に京都市長選があります」

「それじゃ、どなたかに……」

「いや、政治にはまったく、関わりたくありません」

   
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