2024年5月16日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年12月6日

 もっとも、対中関係の打開を見出せない政権内では対中強硬論が勢いを増し、キッシンジャーは2020年に国防政策委員会のメンバーを解任されるなど御用済みとなり、もはや出る幕がなくなった。

 一方で、中国側には米中関係が悪化するほど、キッシンジャーに別の利用価値があった。中国は相手国が非友好的な時、それと異なる立場で一定の影響力がある個人を称揚し、自らの立場を国内外に喧伝する性癖がある。キッシンジャーは自らが抱く危機感のためか、これに喜んで利用されたのである。

 7月21日、生涯最後の訪中を行ったキッシンジャーは習近平と会談し、習近平はキッシンジャーを「古き良き友」と呼び、「両国関係を正しい軌道に戻す建設的役割を担ってほしい」と発言した。これは対中関係改善を模索するバイデン政権への、キッシンジャーを梃とした中国側のメッセージであった。しかし、公式の外交チャンネルを軽んじ、かつての密室取引を彷彿とさせる会談に、米国の反応は冷ややかであった。

「古き良き友」の今後の評価は?

 1970年代の表舞台での活躍と、これをベースに自らを権威化する手法によって、キッシンジャーは「賢人」として振舞ってきた。無論、彼の知見範囲は対中関係を超えた大きな国際関係に及ぶものであったが、やはり彼にとっての中国とは、その最大の利益源泉であったことも事実である。

 キッシンジャーが望んだ米中関係の蜜月時代が過ぎ去った現在、その死に際して中国から「古き良き友」と称された真の評価は、今後の米国ではどのように記憶されるのであろうか。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

   
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