2024年5月19日(日)

Wedge REPORT

2023年12月22日

 現状は赤字であっても、コスト管理などの見直しをすれば黒字化する見込みがある企業へは債務だけでもお金を貸して復活への道を進める。企業としての継続は難しくても、将来性のある事業を持っていれば、その事業や設備、従業員を他社へ引き継がせる。「廃業」と言っても、シャットダウンではなく、ソフトな退場を促す形だ。実行するためには「銀行員一人ひとりの情報収集および活用能力と、何よりも胆力が必要となる」と野崎教授は語る。

日本を「復活」できる国に

 人やモノ、カネの支援を施しても、企業の倒産は避けられない。民間調査会社の東京商工リサーチによると、23年11月の全国の企業倒産(負債総額1000万円以上)は807件と、前年同月比で38.8%増加した。22年4月から20カ月連続で前年同月を上回っている。ここでもコロナ禍が尾を引いている。

 ただ、「企業の倒産は新たな成長の芽を生み、育てるためには必要なこと」と野崎教授は言う。「自らが興したまたは引き継いだ会社が倒産してしまっても、その事業で負けただけで、人生の終わりでは決してない。必ず復活するチャンスはある」とも語る。このことを説明する上で野崎教授がよく使う例は米国前大統領のトランプ氏だという。

 「トランプ氏は何度も自ら社長を務める企業の倒産を経験している。それでも、自らの事業を続け、米国の大統領にもなった」と話す。

 倒産を悪いこととして減らすように意識する風潮があると、まず、リスクをとった起業や新規事業へと手を伸ばす動きを少なくしてしまう。これは、起業家自らの動きだけでなく、それを支援する金融機関にも起こりうる。また、〝失敗〟しない現状維持の経営を選択する傾向になる。そして、潰れないことを目的とするゾンビ企業のような存在を容認することとにもなってしまう。

 野崎教授は「地域経済は安定と活性化の両輪があって成り立つ。もちろん、企業に事業を継続させることは必要なのだが、今ある事業を再生する、廃業を勧める、新しい芽を育てることもやっていかなければならない」と強調する。

 政府は13年6月に閣議決定した「日本再興戦略」で、「開業率が廃業率を上回る状態に し、米国・英国レベルの開・廃業率10%台を目指す」としていた。今では、この目標は明記されていないが、開業だけでなく、廃業も進めていく姿勢が求められる。そのためには、経営者にとっても、銀行員にとっても、倒産を経験することがマイナスの評価にならない社会の仕組みが求められそうだ。


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