2024年5月21日(火)

未来を拓く貧困対策

2023年12月26日

9割の都道府県、政令指定都市持つ「裏マニュアル」

 筆者の調査研究によって、都道府県、政令指定都市の9割以上で独自のマニュアルを持っていることが明らかになっている(大山典宏「地方公共団体お行政裁量と利用者の法的権利-生活保護制度における地方マニュアルからの考察」)。

 これらのマニュアルは一般公開されておらず、窓口で見せてほしいと言っても、多くの場合は拒否されるだろう。国のマニュアルが一般書籍として販売されているのとは大違いである。本庁と現場の生活保護担当者だけがもち、保護決定の指針とする。いわば「裏マニュアル」である。

 付けくわえれば、自治体レベルのマニュアルには質・量ともに相当の開きがある。国顔負けの高水準のものもあれば、20年以上も更新が放置され、もはや化石としか言いようがないものもある。

 では、なぜわざわざ独自のマニュアルをつくるのか。それは、国のマニュアルでは対応できない事例が無数にあるからである。その無数の事例に対して、異なる基準で決定が行われると現場をコントロールできなくなる。

 都道府県、政令指定都市は、長い歴史のなかで、独自のマニュアルをつくり、改訂を続けることで生活保護制度を運用してきた。いわば、ローカル・ルールがそれぞれの自治体における生活保護の水準を決定づけてきたのである。

自治体によって異なる生活保護の基準

 生活保護制度では、窓口の担当者によって言うことや対応が違うという話をしばしば耳にする。マニュアルの存在が影響を与えている側面も否定できない。実際、ある自治体のマニュアルでは「出せる」と書かれているものが、別の自治体では「出せない」と書かれているケースも存在する。

 たとえば、児童養護施設に子どもを預けている親が生活保護を申請した場合、子どもを世帯認定するかどうかについては自治体によって対応が分かれる。東京都や埼玉県では、施設で暮らす子どもの生活費は出せないものの、世帯の一員としては認定する。これにより、施設から一時帰宅する場合、交通費や食事代が出る。

 一方、世帯認定しない自治体では、一時帰宅の費用は出ず、保護者が負担している。

 自治体がそれぞればらばらにルールをつくり、国もそのコントロールをしていない。マニュアルは一般公開されていないので市民の目も届かない。

ある自治体では「出せる」と書かれているが…

 異なるマニュアルをつくることで、ある自治体では「出せる」と明文化されているものが、別の自治体では規定がないということも起きる。

 冒頭の質問に戻ろう。

 3つの問いともに、答えは「出せる」である(一部は例外あり)。ただし、すべての自治体のマニュアルに書かれている訳ではない。1つ目の問いは横浜市のマニュアルに、2つ目は兵庫県、沖縄県、熊本市に、3つ目は東京都に、それぞれ記載されている。

 つまり、いじめで転校した事例は横浜市に住んでいれば確実に出るが、他の自治体ではわからない。2つ目、3つ目も同様である。

 ある自治体では「出せる」と決められているが、別の自治体では定めがない。公務員には、「出せる」と明記されていない項目を出すだけの勇気ある者は少ない。結果として、ルールが明記された自治体ではすんなりと認められるが、そうでない自治体では、本来は保障されるべき保護費が出ないという事態が起こりうる。

 その結果、いじめで転校した子どもの家庭は食費を削って通学費を捻出せねばならない。逮捕勾留を理由に家賃が止められ、滞納してしまう。補修費が心配で急病人の発見が遅れる。ルールが明確になっていないがゆえに、不幸な事態が起こりうる。


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