『精選 生活保護運用実例集』(第一法規)という本をご存じだろうか。生活保護というニッチな分野で、1000頁に迫る辞書並みの分厚さ、3740円という高額な実用書。生活保護ケースワーカーや法律家、研究者といった専門職以外には見向きもされないであろう本が、売れている。
2023年6月に発刊されると順調に販売を伸ばし、増刷が決まった。出版不況が叫ばれるなか、なぜ売れるのか。その秘密に迫る。
いじめ、万引き、孤立死!? そのとき生活保護は?
突然で恐縮だが、皆さんにクイズにお付き合いいただきたい。すべて生活保護に関する問題である。
・いじめで自宅から遠い学校に転校した場合に、バス代などの通学費は生活保護で出せるか?
・生活保護を利用中に、万引きで警察に逮捕されてしまった。この時の家賃は生活保護で出せるか?
・生活保護を受けている人の安否確認のために、警察立ち合いでアパートに踏み込むことになった。緊急事態で家主や不動産管理会社との連絡は取れていない。立ち入りのために壊した玄関の補修費は生活保護から出せるか?
大山典宏(2023)『精選 生活保護運用実例集』から抜粋
・生活保護を利用中に、万引きで警察に逮捕されてしまった。この時の家賃は生活保護で出せるか?
・生活保護を受けている人の安否確認のために、警察立ち合いでアパートに踏み込むことになった。緊急事態で家主や不動産管理会社との連絡は取れていない。立ち入りのために壊した玄関の補修費は生活保護から出せるか?
大山典宏(2023)『精選 生活保護運用実例集』から抜粋
生活保護は、憲法25条に定める健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度である。最後のセーフティネットと言われ、その内容は生活のあらゆる場面に及ぶ。上記の質問は、いずれも「一時扶助」と呼ばれる臨時的な費用の支出に関するものである。
通常、一時扶助の対象になるかどうかは、国が定めるマニュアルに沿って判断することにある。生活保護担当者なら誰でも知っている『生活保護手帳』『生活保護手帳別冊問答集』は、それぞれ1002頁と618頁(2023年度版)。その内容を理解し、ケースバイケースで保護費を出せるかどうかを覚えるのが、新人の第一の仕事になる。
しかし、生活保護手帳などの国のマニュアルを熟知しても、答えが書かれていないケースもある。クイズとして出題した内容は、いずれも国のマニュアルには具体的な記載がない。では、判断基準はないのか。実は、ある。