国が生活保護費を引き下げたことをめぐる裁判で、名古屋高裁は1審判決を取り消した。判決は「著しく合理性を欠き、裁量権を逸脱している」と生活保護費を減額した決定を取り消した上で、国に1人1万円の慰謝料を払うように命じた。
厚生労働相に「重大な過失」としたのは初。生活保護が引き下げられた2013年8月の利用者は216万人で、全国民の1.7%が対象となる可能性がある。国家賠償請求(慰謝料)が認められたことで、国は差別や偏見の解消、利用者の尊厳の回復といった精神的苦痛への対応も問われることになった。裁判は新たなステージに移行したのである。
厚労相に「重大な過失」
23年11月30日、名古屋高裁で、生活保護費の減額決定の取り消しや国に賠償請求を求めた訴訟の控訴審判決があった。判決は、1審・名古屋地裁判決の判断を取り消し、減額決定を取り消すとともに、国家賠償法上の違法も認定した。日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞などの新聞各社は「生活保護減額 国に賠償命令」と異例の大きさで判決を報道している。
今まで様子見を決め込んでいた新聞社も、今回の判決では事実報道から一歩踏み込んだ報道に移行した。明らかに潮目が変わったと感じる。その理由は、大きく2つある。第1に国会賠償請求が認められたこと、第2に今回の判決で裁判全体の趨勢が大きく方向づけられたことである。
まず、名古屋高裁が厚労相の「重大な過失」を認定し、国家賠償請求を認めた点からみていこう。判決では、引き下げの是非を判断する枠組みを次のように示している。
過去の記事「国の独断で生活保護基準を決めていいのか?生活保護引き下げ「違法」裁判を読む」で解説したとおり、この裁判は、国民感情や財政事情による生活保護引き下げは認められるのか、それとも統計等の客観的数値との合理的関連性、専門的知見との整合性といった科学的知見に基づく審査が求められるのかが争われてきた。
名古屋高裁では、科学的知見に基づく審査をしなければ、生活保護法3条などに違反し、違法なものとなるとの枠組みを採用した。
生活保護法3条は、「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」という「最低生活保障の原理」を定めたものである。最低生活保障の原理は、「国家責任の原理」(法1条)、「無差別平等の原理」(法2条)、「補足性の原理」(法4条)とともに、生活保護の4原理とされ法制度の根幹をなすものである。