日本の奨学金制度は、投資効果を重視するあまり、低所得者層と中間層の分断を産んでいる。複雑な制度設計は、国民の不信感を生み、学生も明るい将来を描くことができない。課題解決のために筆者が提案するのは、大学生等を対象にした疑似的なベーシックインカムの導入である。
奨学金制度に必要な理念の転換
奨学金シリーズ最終回となる今回は、前回、前々回の記事を踏まえて、著者から奨学金改革への新たな視座を提案する。
前々回「ひとり親世帯の進学率が1.5倍に 奨学金が拓く未来」では、給付型奨学金を中心とした改革によって、ひとり親家庭の子どもの大学等進学率が10年間で約24ポイント向上していることをお伝えした。
前回「コスパ優先で複雑化する奨学金 割を食う中間層」では、2人に1人が奨学金を利用するなかで、給付型奨学金の対象とならない中間層が割を食う現実をお伝えした。
奨学金改革によって救済の幅は広がり、家庭が貧しくても進学できる子どもたちが増えた。今、理系学生や多子世帯など対象者拡大に向けた検討が進められているものの、どのように線引きをしても必ず割を食う人がでてくる。
「働いてしっかりと税金を納めてきたのに、恩恵は受けられないのか」。
選別主義を進めれば進めるほど、制度からこぼれ落ちた人の不満は大きくなる。財政的な制約がある以上、このジレンマから解放される手段はないのだろうか。そんなことはない。
重要なのは理念の転換である。
現在の奨学金制度は、日本国憲法第26条及び教育基本法に基づく教育政策として位置づけられている。「能力があるにもかかわらず、経済的理由によって就学が困難な者に対して、就学の措置を講じなければならない」(教育基本法第4条第3項)のがその目的である。
これを、「国は、すべての国民が、ひとしく教育を受ける権利を行使するにあたり、必要となる生活保障の責務を負う」という理念に変えていく。理念を実現するのが、疑似的なベーシックインカムの導入である。