2024年4月21日(日)

未来を拓く貧困対策

2023年3月17日

 学生生活でも、学費相当分をアルバイトで賄うのか、それとも貸付型の奨学金を利用するのかは選ぶことができる。アルバイトで月額10万円を稼ぎ出すのは結構な苦労だが、実現不可能な額という訳でもない。逆に、理系学生など大学の授業に集中したい場合は、奨学金を組み合わせて時間を捻出する方法もとれる。もちろん、無理のない範囲で親が学費を負担する方法もある。

 恩恵が及ぶのは学生本人だけではない。

 親も、子どもの教育費という頭の痛い問題から解放される。親世代となる40代、50代は、両親の介護問題、リストラの恐怖、住宅ローンの返済など、子ども以外にも抱える悩みが多い。親世代、さらにいえば祖父母世代にとっても、メリットは少なくないのである。

 「そんな財源がどこにあるのか」「日本でそんな制度が導入できるわけがない」。そんな声が聞こえてきそうである。

 いやいや、それがそうでもない。国の審議会では制度導入に向けた議論が行われているし、一部の自治体では試行的な取り組みをしている。日本弁護士連合会からは、早期導入を求める会長声明も出されている。ただ、そこで「ベーシックインカム」という言葉が使われていないだけである。

 これまでの議論は、一般には「生活保護制度の対象に大学生を含めるかどうか」というテーマにカテゴライズされる。なぜ、生活保護という言葉を使わなかったのか、その理由は最後に述べる。

大学生向け疑似ベーシックインカムは実現間近!?

 生活保護と大学進学の問題は、先行研究や政策提言に相当の蓄積がある。紙幅の都合上、ここでは最新の政策動向について、ごく簡単に触れておこう。

 神奈川県議会は、21年10月15日付で大学生等が生活保護を受けられるよう制度の柔軟な運用を求める請願を採択し、衆参両議院長や首相らに宛てた意見書を提出した(神奈川県「神奈川県議会採択された請願第3回定例会37号」)。

 また、神奈川県横須賀市では、2022年4月から、家庭で虐待を受けた10代の大学生という限定付きながら、生活保護と同程度の生活費を支給する制度を開始した(東京新聞、「生活保護受けるには退学か休学が必要…そんなのおかしい 1人の弁護士の訴えが横須賀市を動かした」2022年3月3日)。

 厚生労働省では、「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会」という専門部会で何度かこの問題が議論されている。

 この専門部会に対して、日本弁護士連合会は、22年10月18日付で「生活保護世帯の子どもの大学等進学を認めることを求める会長声明」を出し、大学生等に生活保護を適用することに消極的あるいは慎重な姿勢を批判している。

 22年12月6日の専門部会が取りまとめた中間まとめ案では、「生活保護世帯の子どもが、大学等への進学について意欲を持ち、その希望ができるだけ叶うよう支援することは重要である。これは、貧困の連鎖を断ち切り、子どもの自立を助長することにもつながるものである」とその意義については評価しつつ、生活保護の対象に大学生を含めることには慎重な姿勢を崩していない。その理由を、次のとおり述べている。

 この点については、一般世帯にも奨学金やアルバイト等で学費・生活費を賄っている学生もいる中、一般世帯との均衡を考慮する必要があること、仮に認めた場合に相当数の大学生等が保護の対象となる可能性があること、我が国において新規高卒者は今日においても重要な労働力であり続けており、高校卒業後直ちに就労することも肯定的に捉えて考えるべきであること等を踏まえ、慎重に検討する必要がある。 (「生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関するこれまでの議論の整理(中間まとめ)(案)」第24回資料1、22年12月6日、下線部筆者)。

 一般世帯との均衡などいくつもの理由を並べているが、言うまでもなく、最も大きな障害は「仮に認めた場合に相当数の大学生等が保護の対象となる可能性があること」である。仮に、136万人に毎月13万円を給付すれば必要な予算は年間で約2.1兆円となる。「はいそうですか」と簡単に出せる金額ではない。

 とはいえ、社会保障給付費126.1兆円からみれば、目をむくほどの金額でもない。年金、介護、医療など高齢者に恩恵が偏っている制度を、子育て世帯にも恩恵が及ぶようにすると考えれば、微々たる改革という見方もできる。


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