6月4日の主要新聞各紙は軒並み、前日発表された人口動態統計を大きく取り上げた。2021年の合計特殊出生率は6年連続で低下して1.30となり、81万人の出生数は明治以降の最少記録となった。2017年の将来推計値に6年早く達したことになる。
もとよりコロナ禍の影響で結婚や出産を避けたことの結果だが、前工業化社会では飢饉や疫病の時期に低下した出生率が、その終息とともに、大きく回復する例が見られた。これを補償的増加という。第2次世界大戦後のベビーブームもその例である。
大正期のインフルエンザ(スペイン風邪)の時には流行末期の1920年に出生率は回復したように見える。しかし今回のコロナ禍の場合、どうも出生率の回復については悲観的にならざるをえない。
日本の合計特殊出生率は2005年を底として15年までは回復基調にあった。しかし16年から出生率の回復軌道からの下振れが始まった。
19年までは、05年からの趨勢が維持されるなら、2080年代には次世代の人口を維持できる人口置換水準(2.06ないし2.07)まで回復できる計算だった。しかしコロナ禍の出生率低下によって、それは期待できそうもなくなった。こうした状況に対して、「政府は少子化非常事態」を宣言すべき、との提案もされるほどだ(6月9日付日本経済新聞「真相深層」)。
選挙争点としての少子化対策
6月22日、第26回参議院選挙が公示された。これに先立って、各党は選挙公約を発表したが、少子化対策としてどのような施策が訴えられているだろうか。NHKのまとめによって、各党の「子育て・教育分野」の公約を見てみよう。
出産に関しては、一時金増額(公明党)、無償化・実質無償化(立憲民主党・日本維新の会)が掲げられている。
育児支援に関しては、短時間勤務制度の対象年齢引き上げ(公明党)、育休給付拡充(自由民主党)に加えて、支給年齢引き上げ・増額・所得制限撤廃を内容とする児童手当の拡充(自由民主党・立憲民主党・国民民主党・れいわ新撰組・NHK党)を多くの党が掲げている。社会民主党は子どもの貧困率引き下げを提案している。
高校生または18歳までの医療費に関しては、助成拡大(公明党)または窓口負担無料化(日本共産党)が掲げられている。
幼児教育・保育に関しては、幼保一元化(日本維新の会)、保育・子育て支援の充実と放課後児童クラブの充実(自由民主党)に加えて、幼児教育・保育の負担軽減または無償化(日本維新の会・国民民主党・日本共産党)が主張されている。
義務教育と高校教育に関しては、授業料・学校給食費・教材費・修学旅行費などを含む義務教育・高校教育の無償化(立憲民主党・国民民主党・日本共産党・社会民主党)を掲げる党が多い。奨学金の返済負担軽減(公明党)、私立高校の無償化(日本共産党)を掲げる政党もある。
高等教育(専門学校・大学・大学院)についても、奨学金の返済負担軽減・返済免除・給付型への転換(公明党・日本共産党・れいわ新撰組・社会民主党)、あるいは大学入学金・授業料の軽減・無償化(立憲民主党・日本維新の会・日本共産党・れいわ新撰組)と、多くの政党が高等教育への就学支援の強化を訴えている。このほか研究費や国立大学運営費交付金の拡充を通じて研究環境の向上を掲げる政党(NHK党)がある。
これまで日本の子育て支援は力不足だと指摘されてきた。現金給付、現物給付、税負担の軽減を含む家族関係社会支出の国内総生産(GDP)に対する比率は、主要ヨーロッパ諸国と比べて、ほぼ半分程度でしかない。その点からすれば、参院選で各党が訴える公約の全てが実現するならば、それなりの効果が期待できるはずだ。しかしそれはあくまで子育て支援のスタートラインに立ったにすぎない。