2023年12月10日(日)

未来を拓く貧困対策

2023年3月10日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科博士後期課程修了。コミュニティ福祉学博士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 厚生労働省の最新調査では、母子世帯の子どもの大学等進学率66.5%、これに対して父子世帯は57.9%となっている。10ポイント近い差があるのはなぜか。「男親はだらしないから」と判断するのは早計である。背景には、世帯収入で受けられる恩恵に差がある奨学金の盲点がある。

(Rawpixel/gettyimages)

母子世帯と父子世帯、なぜ進学率の差が生じるのか

 前回「ひとり親世帯の進学率が1.5倍に 奨学金が拓く未来」では、給付型奨学金によって低所得者層に進学のチャンスが広がったことをお伝えした。今回の記事では、現行の奨学金制度がもつ負の側面を伝えていく。

 厚労省が実施している「全国ひとり親世帯等調査」によると、2021年度の大学等進学率(大学、短大、専修学校・各種学校に進学した人の割合)は、母子世帯が66.5%、父子世帯が57.9%であった。母子家庭と父子家庭を比べると、母子家庭の方が約9ポイント高くなっている(図表1)。

 調査総数の違いがあるにせよ、なぜこれほど差が広がるのか。「子どもの進学に無関心な男親が多い」「父親の背をみて育った子どもは、早く自立したがるものだ」。こう考える人もいるかもしれない。たしかに、個別事例ではこうしたケースもあるだろう。

 しかし、男親、女親という違いだけでこれだけの差が生まれるのは、いかにも不自然である。

 謎を解くヒントは、世帯収入にある。前述の厚労省調査によれば、母子世帯の母の平均年収は272万円、これに対して父子世帯の父の平均年収は518万円となっている(数値はいずれも推計)。

 前回の給付奨学金の解説を思い出してほしい。最も有利になるのは、年収約270万円以下の所得階層である。年収約380万円を超えれば給付型奨学金は対象外となる。

 母子世帯の平均年収は給付型奨学金の条件に適合し、子どもは有利な条件で給付型奨学金を利用できる。これに対して、父子世帯の多くは給付奨学金を利用することができない。

 残念ながら、母子世帯、父子世帯に分けた形での進学率データが公表されたのは、21年度からである。奨学金改革が行われる前のデータで変化を確認することはできない。しかし、「母子世帯の進学率が上昇した一方で、父子世帯の進学率は以前のままなのではないか」と仮説を立てることはできる。


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