ハンセン病訴訟が果たしたのは、当事者に対する補償だけではない。訴訟をきっかけに、ハンセン病患者や元患者の名誉を回復するために、政府が社会啓発に向けた活動に取り組むようになった。熊本県では、小学校、中学校、高等学校の教育教材としてハンセン病の差別と偏見の歴史を学び、同じことを繰り返さないようにするための教育が行われている(熊本県教育委員会「ハンセン病回復者及びその家族の人権」)。
もちろん、ハンセン病訴訟と生活保護引き下げ訴訟はその内容が異なるため、同一視することはできない。しかし、国家賠償請求を認めるという判断は、それだけ重大なものである。単に引き下げを取り消すだけでなく、国は差別や偏見の解消、利用者の尊厳の回復といった精神的苦痛への対応も問われることになった。裁判は新たなステージに移行したのである。
今後の動向は
報道によると、武見敬三厚労相は12月1日の閣議のあとの記者会見で、「当時は生活保護制度が極めて好ましくない形で悪用されているケースなどがあり、こういうことに対してきちんと対処すべきという考え方が前提にあって、生活保護制度に関わるさまざまな見直しが行われた。その手順も含めて適切なものだった」との認識を述べた。
そのうえで、「判決内容を精査して、関係省庁や被告の自治体と協議したうえで、今後、適切に対応したい」としている(NHK、2023年12月1日)。
今後、裁判の行方はどうなるのか。全国民の1.7%が対象となる、かつてない規模の救済は行われるのか。引き続き、動向を注視していきたい。
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