判決では、この判断枠組みに基づき、厚労相が行った(1)生活保基準額の水準と消費実態との乖離の解消(ゆがみ調整)、(2)物価動向を踏まえた減額(デフレ調整)の2点について、「裁量権の逸脱は明らかで、重大な過失がある」と判断した。その理由を次のとおり述べている。
つまり、憲法25条が保障する生存権、つまり健康で文化的な最低限度が保障される権利が侵害されたと宣言したのに等しい。
原告勝訴12 vs 原告敗訴10、その実態は
次に、裁判全体の動向をみていこう。一連の裁判は全国29の地裁で起こされた。高裁での判決は、原告側敗訴とした大阪高裁に続き2件目。これまでに出された22件の1審判決のうち12件が取り消しを認めており、判断は割れている。
ただし、全体の趨勢という点ではみえる風景が違ってくる。日本経済新聞がまとめた判決年ごとの比較図がわかりやすい(表1)。
裁判は2020年から地裁判決が続いていたが、原告敗訴だったのは20年から21年にかけてである。22年には原告の勝訴と敗訴が拮抗し、23年には原告勝訴が圧倒している。
しかし、23年4月の大阪高裁では原告敗訴となっていた。今回の名古屋高裁でも原告敗訴となれば最高裁判決でも同様の判決となる可能性が高くなる。一方、原告勝訴となれば、最近の地裁判決のトレンドをより強めることになる。つまり、今回の名古屋高裁の判決が趨勢を決める重要なターニングポイントとなっていたのである。
対象者は216万人!? それ以上の可能性も
名古屋高裁の判決を受けて、最高裁判決で生活保護引き下げの判断が出される可能性がでてきた。
こうなると、次の注目は、「仮に原告勝訴の判断がでたときに、政府や行政はどう対応するのか」という点に移っていくだろう。高裁判決の段階では時期尚早との批判は甘受したうえで、仮定のシナリオを検討してみよう。