2024年4月30日(火)

未来を拓く貧困対策

2023年10月17日

 2023年7月1日、厚生労働省は、新たな介護保険制度の基本方針案に、家族の世話や介護に追われる若者「ヤングケアラー」の支援強化を盛り込んだ。各市町村にある高齢者の支援窓口「地域包括支援センター」が相談を受け付けるとともに、早期把握・支援に向けた体制強化を目指す。

親や兄弟のケアに懸命に取り組むヤングケアラーの姿がメディアに取り上げられるが、その実態は異なるという……(AFLO)

 しかし、現場からは対応を不安視する声が上がる。原因は、「契約主義」「制度主義」「成果主義」で問題を解決しようとする福祉政策の構造にある。困難を抱える子どもたちに寄り添う実践者の語りから、解決のヒントを探る。

 家族の世話に追われて学校にも行けず、勉強もできず、将来の夢も描くことができない。孤立するヤングケアラーに支援の手を──。国、自治体を問わず、ヤングケアラーの支援に向けた動きが加速している。

 厚労省などの実態調査では、世話をする家族がいると答えた子どもは中学2年生の約17人に1人、全日制高校2年生で約24人に1人。1日7時間以上を世話に費やす子どももいる。本人は家族の介護を当たり前の現実として捉え、相談や助けを求めることが少ないとされる。

 さらに、生活困窮者向けの学習支援事業を展開している「彩の国子ども・若者支援ネットワーク」(さいたま市)の調査では、困窮世帯の4人に1人、生活保護世帯に限れば4割がヤングケアラーに該当するという衝撃の結果が公表されている(「ヤングケアラー支援へ 知るべき現場とのギャップ」参照)。

 経済的困難、ひとり親、精神疾患、外国籍、不登校、虐待……。ヤングケアラーは独立した問題ではない。しかし、現実の政策立案では、複眼的視点よりも、キャッチーで誰にでも分かりやすく、低コストで効果が計測しやすい事業がもてはやされる。

 国や自治体が企画する事業には、ヤングケアラーの問題を広く知ってもらうための啓発、必要な支援につなぐための研修、当事者がオンラインで相談・交流できる場の提供といったメニューが並ぶ。メディアでは、誰もが共感する、親や兄弟のケアに懸命に取り組むヤングケアラーが取り上げられる。

「苦しい時にそばで話を聞いてくれる人がいることで、助かる人がいる」

 このような優しい決まり文句で、支援の必要性を訴える。

 しかし、実態は異なる。こどもソーシャルワークセンター(滋賀県大津市)の幸重忠孝理事長は言う。

「病気や障害で大変な親をけなげな子どもが支えているという物語は、私の知る現実とは距離がある。分かりやすさは、 子どもたちを傷つけることになりかねない」


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