幸重氏のセンターには、学校や家庭などで寂しさや息苦しさを感じる子どもたちが集まる。その中には、うつ病で動けない母親の代わりに、兄弟の世話を担うヤングケアラーもいる。
「彼ら、彼女らの主観では、たしかに一生懸命頑張って親を支えている。しかし客観的に見ると、また違った現実が浮かび上がってくる」
分かりやすいのは食事だという。
「普段の家事の様子を聞いていくと、カップラーメンにお湯を注いで家族に食べさせている。他にもそうめんやうどんなど調理が簡単な麺類が多く、米と野菜などの栄養バランスのとれた食事はしていない」
ヤングケアラーの家事負担を軽減するためのヘルパーを派遣すべき、という声に幸重氏は疑問を投げかける。
「毎日の食事全てをヘルパーがつくるのは現実的ではない。一方、たまに来るヘルパーが、手の込んだ食事をつくると、どうしても普段の食事と比較される。ケアを担っていた子どもの自尊心は傷つくだろう」
さらに、子どもならではの事情もある。
「当日の無断キャンセルもある。地域包括支援センターが一生懸命調整してヘルパーの派遣が決まっても、当日、訪問したら誰もいない。約束を守るよう説教をすれば、サービスの拒否につながってしまう」
無断キャンセルでは、事業者は介護報酬も受け取れずにただ働きとなる。それが分かっていて、どれだけの地域包括支援センターがサービス提供につなげられるだろうか。幸重氏は、指針の実効性を疑問視する。
現行の福祉サービスは、支援を必要とする人が相談機関に申請をして、定められたルールに基づいてサービスの提供を受ける「契約主義」を取っている。契約の主体となるには責任が伴う。親や子どもに契約能力がないとき、あるいは契約を望まないとき、契約主義はサービスの提供を困難にする。
地域包括支援センターに
丸投げする未来が見える
「関係者は、これ幸いと地域包括支援センターに丸投げするかもしれない」
別の視点から先行きを懸念するのは、安井飛鳥氏だ。弁護士、社会福祉士、精神保健福祉士の3つの専門資格を持ち、法律と福祉の知見を生かして子ども・若者の支援に取り組んでいる。ヤングケアラーがテーマの研修も増えているが、即効性のある対策を求める現場の声も多く戸惑いがあるという。
「ヤングケアラーが生まれるのは、既存のサービスでは埋められないものがあるからだ。それが何かを知るためには、まず当事者や家族に何を望んでいるのかを聞かなければならない。しかし、実際には、関係者が身近にヤングケアラーが存在するというモヤモヤを解消するために、手っ取り早い魔法の解決策を求めているように見える」