2022年10月3日(月)

未来を拓く貧困対策

2022年9月12日

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大山典宏 (おおやま・のりひろ)

高千穂大学人間科学部教授

1974年生まれ。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。福祉事務所や児童相談所での相談業務、生活保護利用者の自立支援事業の企画運営等の行政経験を経て、現職。著書に『隠された貧困』(扶桑社新書)『生活保護vs子どもの貧困』(PHP新書)『生活保護vsワーキングプア』(PHP新書)など。

 前回「ヤングケアラー支援へ 知るべき現場とのギャップ」では、子どものいる困窮世帯の4人に1人、生活保護世帯の4割がヤングケアラーであるという調査結果を紹介した。困窮世帯のヤングケアラーは、「病気や障害で働けない親を、子どもが支える」というわかりやすいストーリーでは語ることができない。

(fiorigianluigi/gettyimages)

 前回に引き続き、アスポートで代表を務める土屋匠宇三さん(37歳)が語るエピソードから、ヤングケアラーの現実をみていこう。見えてくるのは、虐待とヤングケアラーとの切っても切れない関係である。

 なお、個人が特定されないように登場人物は仮名とし、世帯構成や子どもの年齢などは最低限の改変を行っている。

「母さんが家出した」

 アスポートの女性支援員の携帯電話が鳴ったのは、学習教室も終わり、ようやく一息ついた20時を過ぎたあたりだった。電話をかけてきたのは、小学5年生のアカリ。つい先ほど、学習教室から自宅まで送り届けたばかり。聞けば弟たちも、母を探すために家を出てしまったという。

 泣き出してしまったアカリをなだめながら、まだ事務所に残っていた同僚と上司に声をかける。「とにかく家に行ってこい」。上司の声を背中に聞きながら同僚の男性支援員とともに、事務所を飛び出した。

 アカリの家は、4人家族。長女のアカリの下に、小2と小1の2人の弟がいる。母は介護士のパートとして働いている。父はいない。

 アカリは週に3回通うアスポートの学習教室で、大学生のお姉さんに勉強を教えてもらっている。弟も通わせたいが、学習教室に通えるのは小3からという決まりになっている。

 母からは、「弟たちの宿題はあなたがみてやってね」と言われていた。もう夏休みも終わろうとしているが、アスポートに通っていない弟たちは夏休みの宿題には手をつけていない。何度かやらせようとしたが、弟たちは言うことを聞かなかった。忙しそうにしている母には、とても相談できなかった。

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