2024年11月22日(金)

未来を拓く貧困対策

2022年9月12日

 今回のケースのように、子どもが警察経由で一時保護され、その後に児童相談所に呼び出されることも決して珍しいことではない。関わりのきっかけが、一時保護のようなハードなケースでは、よい相談関係をつくるのは、当事者にとっても、児童相談所にとっても困難になる。

 これに加えて、児童相談所が一時保護を解除したあとに事件が起これば、激しいバッシングにさらされる。そうなった時に困らないように、児童相談所は万全の態勢でなければ引き取りを認めない。

 監視社会が強化されるなか、母親への要求のハードルはどんどん高くなり、ただでさえ厳しい状況にある母親は、さらに追い詰められることになる。アカリさんの事例は、決して稀有な事例ではない。

監視ではなく見守りを

 事態の悪化に、国や自治体も児童相談所に偏った虐待対応の見直しに動き出した。

 22年6月に改正された児童福祉法では、児童相談所が虐待を受けた子どもを親と引き離す一時保護について、裁判所が必要性を判断する「司法審査」を導入する。司法審査では、児童相談所が保護開始から7日以内に一時保護状を請求。却下されれば、保護を解除しなければならない。強制介入に司法の目が入り、重層的なチェックが可能となる。

 加えて、虐待をしていないかを監視するという立場ではなく、子育て世帯を包括的にサポートするための体制整備に向けた動きもはじまる(厚生労働省「児童福祉法等の一部を改正する法律(令和4年法律第66号)の概要」)。

 アスポートが行っている虐待予防の相談活動も、地域で子育て世帯をサポートする動きの一つとして位置づけられる。

 21年から動き出した「支援対象児童等見守り強化事業」は、子ども食堂などの民間団体が、食事の提供や学習・生活指導等の支援を通じて子どもたちの見守り支援を行うものである(図表2)。

 現在は、いくつかの自治体でモデルケースとして試行的に事業が始まっている。アスポートは、学習・生活支援事業の受託者として10年以上の実績がある。学習支援を通じて育んできた子どもたちやその親たち、市役所や学校との信頼関係がある。報道されない地道な活動こそが、子どもたちの支えにつながっているのである。

 とはいえ、それを実現することは簡単なことではない。インタビューは仕事終わりの喫茶店で行われたが、インタビューが終わった後も土屋さんが携帯電話でやり取りをする姿が見られた。聞けば、このあと事務所に戻るという。

 「トラブルは毎日起こっています。前代表は、『今日も順調にトラブルが起きている』とよく言っていました。それに寄り添うのが、アスポートなんだと」

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