「母親はいますが、仕事もあって子どもたちの生活すべての面倒をみることはできません。どうしても、アカリさんが下の子の面倒をみる必要がある。
経済的にギリギリの生活を送っているところに、水回りの修理で20万円という高額な支払いを要求された。おそらく悪質な業者に引っかかってしまったのでしょう。普通なら20万円もかかるような工事ではありません。
複数の業者から見積もりを取って価格を抑えたり、地元の安心できる業者に頼んで良心価格で対応してもらったりする生活の知恵もない。経済的に苦しいのに、割高な条件で工事を頼んでしまう。社会から孤立している家族には珍しいことではありません。
勉強にしても、アカリさんから事情を聞くと、弟たちに宿題をさせようとはしたそうです。でも、自宅でノートを広げても、アカリさんのことが大好きな弟たちはすぐに遊びだしてしまう。忙しい母親はそのことに気づく余裕もなかった」
夏休みの宿題はあくまできっかけに過ぎない。経済的困難や一人で子育てをしなければならない母のストレスから、風船のように家族の危機は膨らみ続けていた。
宿題の件がなかったにしても、別の何かで爆発しただろうと土屋さんはいう。それでも、今回はアスポートが間に入ることができた。
「アカリさんは週3回、学習教室に参加していました。困ったときの連絡先として、アカリさんはアスポートの電話番号を知っていたのです。
アスポートでは小学生は自宅まで送迎していますので、支援員と母は何でも話せる関係でした。母の携帯電話番号も聞いていましたから、家出をしてもすぐに連絡を取ることができた。
さらに、アスポートが市の事業として虐待予防事業の受託をしていたこともプラスに働きました。市役所と連携して動くことができたので、警察や児童相談所が介入する前、黄色信号の段階で対応ができたのです」
もう一つ、アスポートには学習支援という強い武器があるという。
「『宿題をやっていない』という相談に、一緒に勉強をしようと言えるのはアスポートの強みです。学校とも普段から連絡を取っているので、先生に事情を話すこともできる。
ヘルパー派遣などの直接的な解決策が議論されがちですが、家事や掃除などの支援を求めている家族ばかりではありません。それよりも、何か問題が起きた時に、どうしたらいいのか一緒に考えてくれる人がいることの方が大切です。
こうした関係は一朝一夕でできるものではありません。学習を通して継続して関わることで信頼関係のパイプが太くなります」
「こども警察」となってしまった児童相談所
2021年度中に、全国220カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は20万7659件(速報値)と、過去最多を更新し続けている(図表1)。
うち約半数の10万3104件は警察からの連絡である。児童相談所は、もはや「こども警察」と言っても過言ではない組織となっている。本来、児童相談所は、子どもが抱えるあらゆる問題に相談に応じる専門機関である。しかし、痛ましい虐待死と児童相談所の不手際の報道が繰り返されることで、気軽に足を運べる相談機関ではなくなってしまった。