そして、夏休みの最終日。宿題ができていないことを知った母親は、「なぜ、きちんとやらせなかったのか」とアカリを責めた。しばらく怒鳴ったあと、「もう嫌だ」といって家を出てしまった。
「どうしよう」。そう思った時にアカリの頭に浮かんだのが、アスポートの電話番号だった。
しばらくすると、顔を見たことのある女性支援員が家にやってきた。「もう大丈夫だよ」――。
「もう無理だ」…母の事情
アスポートからの連絡を受けて駆け付けた市役所の職員とともに、母と幼い弟たちの捜索がはじまった。弟たちは、すぐに見つかった。いつも遊びにいく友人宅で保護されていたのだ。
その後、すぐに母にも連絡がついた。市民体育館の休憩スペースで、頭を冷やしていたのだという。
夏休み中は、ずっと生活費の工面で頭を悩ませていた。きっかけは小2の弟が起こした水回りのトラブルだ。ネット検索で一番上に出てきた業者に修理を頼んだら、20万円かかった。
給料と貯金のすべてでも足りない。このままでは生活が破綻してしまうので、アルバイトをもう一つ増やした。それでも食費が足りない。もうずっと休みが取れていないので、頭ももうろうとする。イライラしている自分がわかる。
そんななかだ。夏休みの最終日に、アカリ以外の子どもたちが宿題をしていないことがわかった。「どうするの」と問いつめると、「学校に行かない」と言い出した。
「なぜ、アカリは勉強をみてやらなかったのか」「どうして、子どもたちは自分の言うことを聞かないのか」。こんなに自分は頑張っているのに、ワガママばかり言う。
頼れる夫もなく、一人で子どもたちを育ててきた。お金もなく、食事もない。愚痴や不満をいえる相手もいない。今までも限界だったのに、子どもたちが不登校になったら――。
「もう無理だ」。そう思うのと同時に家を飛び出してしまった。少し頭が冷えて、これからどうしようと思っていたところに電話がきた。まだ頭が混乱している。
支援員に今までの苦しさをぶちまけているうちに、少しずつ母も落ち着いていった。「宿題はアスポートでお手伝いします(筆者注:アスポートの学習教室の対象は原則として小3からだが、個別事情により小2以下の支援もしている)。学校にも事情を話して配慮を求めるので、何も問題ありませんよ。お金のことは、少し落ち着いてから相談に乗ってくれる人を紹介します。大丈夫、心配はいりません」。支援員が母の言葉に耳を傾け、言葉を添える。
「ひとまず、家に戻りましょう」。その言葉に母はうなずき、家に戻った。こうして、家族の危機は回避された。