2024年6月19日(水)

未来を拓く貧困対策

2022年9月12日

起こり得たもう一つのシナリオ

 今回は、母や子どもたちと関係の深いアスポートが介入したことで、大事になることなく事態は収束した。アスポートがいなかった場合のもう一つのシナリオも描いていきたい。

 アカリが頼ったのは、近所のコンビニエンスストアだった。母が家出をしたと聞いた店員は、すぐに警察に電話をする。

 駆けつけた警察官は、育児放棄と判断、子どもたちの身柄を保護して児童相談所に送り届けた。受入れの調整に時間がかかり、遠方の一時保護所に子どもたちを送り届けたのは翌日になっていた。定員を超えての受入になるので、明日には、兄弟ばらばらに別の施設に保護されることになるという。

 途中、母から警察に半狂乱で電話がかかってきたが、詳しいことは児童相談所に聞いてくれと押し返した。対応した警察官は溜息をつく。最近、こういう案件に振り回されることが増えた。いったい、世の中はどうなっているのか――。

 「子どもを返してください」。翌日、指定された児童相談所に赴き、母は対応した児童福祉司に食ってかかった。「アカリを大声で叱ったのはまずかった。でも、周囲に迷惑をかけずに、自分一人で子育てをしてきた。誰も助けてくれなかった。ほんの少しの失敗で、自分は子どもを取り上げられるのか。なぜ面会さえ認められないのか」。それに対し冷たい表情で「それは虐待です」と繰り返す担当者。

「いつになったら、子どもたちを返してくれるのか」

「それはあなた次第です」

「何をすればいいのか」

「それを一緒に考えるために、お話を聞かせてください」

 お互いに神経をすり減らすやり取りが繰り返される。

 面接後、記録をつけながら、担当の児童福祉司はため息をつく。ひとり親、多子家庭、非正規雇用、経済的困難、頼れる親族なし、母は感情的に激しやすい。リスク評価をするアセスメントシートにはマイナスの情報が並ぶ。

 子どもたちを家に帰すために、いったいどれだけの条件を母親に求めなければならないのか。それを母親はクリアできるのか。積みあがる書類の山に新しい台帳を置き、次の面接相手へのアポイントメントを取るために受話器を手に取る。

アカリさんは典型的なヤングケアラー

 「アカリさんは、アスポートが扱う典型的なヤングケアラーの一人です。今回の事件は普段からの信頼関係のパイプがあったため、『問題』として浮かび上がり、大きな事件になりませんでした」

 土屋さんは続ける。


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