ともに隙を見せることなく、東京五輪以降の「無敗ロード」を突き進んでいる。端正な顔立ちの一二三と、笑顔も映える詩は日本柔道界にとっても、待望のスター選手と言ってもいい。
柔道「黄金時代」復活へ
日本柔道は2000年前後、人気絶頂の時代があった。2000年シドニー五輪男子100キロ級金メダリストの井上康生(リオ五輪、東京五輪日本男子監督)、井上としのぎを削った04年アテネ五輪男子100キロ超級金の鈴木桂治(現日本男子監督)、さらに男子60キロ級五輪3連覇(1996年アトランタ、シドニー、アテネ)の野村忠宏、女子ではヤワラちゃんの愛称で親しまれたシドニー、アテネ2連覇の谷(旧姓・田村)亮子らが世界のトップに君臨。日本開催(大阪)となった03年世界選手権はフジテレビ系列で放映され、女優の藤原紀香さんらがメインキャスターを務めるなど豪華な演出で、高視聴率を稼いだ。
しかし、その後は次第に「4年に一度」注目を集める五輪競技特有のサイクルにのまれていく。13年1月には、当時の日本女子の指導陣による暴力や全日本柔道連盟の助成金不正受給などが発覚。ゼロからの再建を余儀なくされた。
競技人口の減少にも歯車がかかり、全柔連の個人登録者数の推移をみると、06年までは20万人を超えていたが、20、21、22年は12万台にとどまり、4割ほど減っている。
全柔連は23年8月、画一的な勝利至上主義に傾倒せず、現代社会における柔道の役割と価値を再定義した新しい指針となる「長期育成指針」を策定し、打開策を探る。こうした地道で長期的な取り組みはもちろん欠かせないが、スター選手の躍動は一時的だとしても「ライト層のファン」を増やし、世間の関心を一気に高めることができる。この点で言えば、豪快に投げるスタイルを武器とする「阿部きょうだい」の柔道は、競技の魅力が詰まっていて、観客にも柔道の醍醐味が伝わりやすい。
GS東京大会の金メダルを首から提げた一二三は言った。
「柔道を生で見る機会は少ないと思う。だからこそ、豪快な柔道を見せられたのはよかった。会場やテレビで見てくれた人が『柔道おもしろいな』と少しでも興味を持ってくれたらいいかなと思います」
一二三は野村忠宏の3連覇を超える4連覇を目標に掲げ、パリ五輪は通過点になるだろう。詩の強さも際立つ中で迎える今夏の「スポーツの祭典」は、「最強きょうだい」の柔道から目が離せない。(文中敬称略)