2024年5月20日(月)

都市vs地方 

2024年1月10日

 結局、人々が島に帰るには4年半かかった。災害が収まってもすぐに帰れるわけではない。インフラとライフラインの復旧に時間がかかる。

 避難している島民はこれら作業の進行状況に関心が高いので、被災自治体、そして政治と行政は、被災者に対して情報を具体的に伝えることが大切である。作業が行なわれていることを知ってこそ自分たちの帰島に希望をもつことかできる。

 避難先は1カ所にまとまっていることが望ましいが、実際には、どうしてもある程度分散して避難生活を送ることになる。地域住民同士のコミュニケーションを継続できるよう支援することも大切である。

 インフラとライフラインを復旧する仕事は普通の基礎自治体の能力を超える。国と都道府県が全力を挙げて取り組むことが必要である。特に国の財政支援、県の土木・建築能力の発揮がなされて始めて帰島への道程を描くことができる。

市民生活にとっての復興

 復興とは、市民生活の復興であり、がれきの片づけやインフラの建設ではない。道路や鉄道そして住宅が回復しただけでなく、そこに住む市民生活が元通りあるいはさらに改善されてはじめて復興といえる。

 05年のニューオーリンズのハリケーン・カトリーナによる水害のあと、筆者はフォード財団の援助を得て三宅島の2000年噴火の被災者や支援の市民活動のリーダーたちとニューオーリンズの人たちとの交流を実施して何度も現地を訪問した。繁華街であるフレンチクォーターはすぐに賑やかさを回復したのに対し、低所得者が多く住む地域は何年経っても空き地が目立った。市民生活の復興には長い年月がかかる。

 ニューオーリンズの人たちも三宅島や、東京のゼロメートル地帯の人たちと交流した。被災者同士、支援のボランティア同士は、会った瞬間からすぐに友だちになることができる。自然災害の態様の違いを超えて、住み慣れた土地を一時的にも離れざるを得ない辛さや悲しみを共有することができる。

 東日本大震災の被災地でニューオーリンズの人たちがジャズを演奏したとき、東北地方の被災者にはとても喜んでもらった。ニューオーリンズの被災地では、コミュニティの音楽ホールをいち早く再開したことを聞いて、アトランタ等に避難してきた人たちがニューオーリンズに戻る気になったという。同じくニューオーリンズでは、マーケット・アンブレラという、広場で傘を立てて現地で収穫した野菜や果物を得る市場がいち早く再開され、人々が戻ってくる動きを促進した。

 私たちにとって大切なのは、経済的・文化的にも被災地の人々が元の生活に戻れる日に向けて長い交流を心がけることだと思う。

   
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