2024年11月1日(金)

霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生を

2024年1月24日

CASE3
民間企業では経験できない
〝ハイレベル感〟

(Cさん/国土交通省)

  キャリアの長い期間、海上保安庁で尖閣諸島の領有権をめぐる問題に携わってきた。尖閣諸島周辺でのトラブルは国の尊厳に関わる事案だけに全てが首相官邸マターであり、現場から収集した情報を官邸に取り次ぐことに奔走した。常に緊張感が付きまとう仕事で、いざ何かが起これば「忙しい」「きつい」と考える暇もないほど目まぐるしく対応しなければいけなかった。その原動力となったのは日本の領土・領海を断固として守り抜くという自負である。

 官邸の地下で巡視船に設置されたカメラの映像をリアルタイムで見て、現地の緊迫感をひしひしと感じる状況に直面することもあったし、決して口外できないような機微な情報を扱うことも少なくなかった。このような〝ハイレベル感〟を民間企業で経験することは難しいだろう。

CASE4
深夜3〜4時まで働いても
全く苦ではなかった

(Dさん/外務省)

 残業は月平均60時間程度。かなり働き方改革は進んだと思う。入省した頃は、連日朝帰りも珍しくなかった。

 外務省の仕事は国際社会の中での日本のプレゼンスや国益に直結する仕事であり、「楽をしよう」などとは思ってはいけない。主体性を持ちあらゆる外交イシューを「自分事」として捉えられる人こそが外務省に入るべきだと思う。

 印象的な仕事は、米通商代表部(USTR)とハードな交渉をしたことだ。大きな裁量や権限を与えてもらい、自分が政策を動かしているという実感を得られ、本当に楽しかった。深夜3~4時まで働き、自費で赤坂のホテルに宿泊し、翌朝外務省に再出勤するという日々を繰り返したが、全く苦ではなかった。

 数年前、アジア太平洋経済協力(APEC)の閣僚会合に出席し、日本の代表としてスピーチをしたことがある。そのとき、他国の出席者は私の発言を聞き、熱心にメモをとっていた。日本の発言は国際会議の場で重要視されているという実感を得られた瞬間だった。これまでに日本が築いてきた信頼や尊敬という下駄を履かせてもらい、今の日本のプレゼンスがある。次の世代にも引き継いでいきたい。

CASE5
 利害関係の外にいるからこそ
できる旗振り役

(Eさん/国土交通省)

 官僚の仕事は本来、1年目からやりがいを感じることができるはずだ。しかし、若手は大量印刷や文書の体裁修正、窓口業務、部署内での取りまとめなどを任されることが少なくない。大きな期待を抱いて入省したにもかかわらず、自分のやっている業務が、政策にどう貢献しているのかが見えづらく、徒労感が募っているだろう。

 また、非効率だと感じる業務も多々ある。例えば、法律改正の際に、概要、要綱、法律案・理由、新旧対照条文、参照条文の「5点セット」といわれる資料を国会に提出している。「昔からずっと作っているから」という理由で今も形式上継続しているが、ほとんど使われていないと感じるものもある。官僚側から言い出しにくいという事情もあるが、要否を検討すべきだと思う。

 一方、官僚にしかできない魅力的な仕事もたくさんある。私は新型コロナウイルスが流行した当時、公共交通機関の事業運営に関わる業務に従事していた。緊急事態宣言など人流を抑制して利用客が激減する中、事業者の多くは従前より赤字経営で、会社存続の危機にさらされていた。感染症対策が求められた時期には、必要な補助金を検討したり、補助金受給のガイドラインを作成したりした。

 こうした旗振り役は、利害関係の外にいる中立的な立場だからこそできることだ。自分が考え生み出したアウトプットが、世の中の役に立っているという手応えを感じられるのも官僚ならではだと思う。

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Wedge 2024年2月号より
霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生に必要なこと
霞が関の危機は日本の危機 官僚制再生に必要なこと

かつては「エリート」の象徴だった霞が関の官僚はいまや「ブラック」の象徴になってしまった。官僚たちが疲弊し、本来の能力を発揮できなければ、日本の行政機能は低下し、内政・外交にも大きな影響が出る。霞が関の危機は官僚だけが変われば克服できるものではない。政治家も国民も当事者だ。激動の時代、官僚制再生に必要な処方箋を示そう。


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