2024年4月29日(月)

知られざる現場、知られざる仕事

2024年2月7日

 地上150メートルを〝職場〟とする仕事がある。送電線の整備、補修、点検を担うラインマンだ。2024年元旦を襲った能登半島地震でも多くの電柱が倒壊し、電線が切れたため、必死の復旧作業に取り掛かっている。

電線の上から電力供給を支えるラインマン(ETSホールディングス提供、以下同)

 こうした災害などの非常事態への対応だけでなく、平時から全国各地に張り巡らされている送電線をメンテナンスする。決して太くない電線の上でバランスを取って行う作業は、精神的にも肉体的にも緊張感が高まる。現代社会における仕事や生活に不可欠な電気の供給を支える「縁の下の力持ち」を取材した。

危険を避けながらブラックアウトをなくす

 ラインマンが仕事の上で最も気を張るのが、高さによる危険との戦いだ。「毎朝の朝礼で、その日の作業の流れや人員配置を確認するが、欠かせないのが危険予知活動」。東北地方を中心に送電線工事事業を担うETSホールディングス電力事業本部東北支社電工現業部の菊地拓真さん(31歳)は話す。

ラインマンの仕事の難しさについて語る菊地拓真さん

 危険予知活動とは、鉄塔の上で足を滑らせて墜落する、工具や資材を手元から落として地上の人や建物にぶつかる、電気が流れている電線に近づきすぎて感電する、といった作業をしていく上で起こりうる危険性を挙げてその危険性を排除する対策をしておくことだ。鉄塔の高さや電線の張り具合、天候によって危険性は異なり、「現場やその日によって特に気を付けることは変わってくる」と菊地さんは話す。

 送電線は、河川沿いにある水力発電所や、海岸近くにある火力発電所や原子力発電所、丘陵地帯にある風力発電所や太陽光発電所から、全国各地にある住宅やビル、工場へと張り巡らされている。その距離は計9万キロメートル(km)。全国の高速道路の総延長約9000kmの10倍の長さだ(送電線建設技術研究会調べ)。

 山岳地に建てられる鉄塔は高さ100メートル(m)を超えるものもあり、街中の鉄塔は高さ50mほどだ。3~5km間隔に電線が張られ、これを1区画として架線工事がなされる。細いロープから太いロープ、電線へと引き替え、風が吹いても破損したり互いがぶつかったりしないような適切な張力に調整していく。

 保守・点検に関しては、雨風にさらされるなどの経年劣化の具合を見て、必要ならば電線を張り替える。日本で初めて送電鉄塔が建設されてから100年超が経過した今、ラインマンの仕事の多くが老朽化への対応としての保守・点検、ブラックアウトを防止するために他地域から電力を融通するための送電網の増強、太陽光や風力など新たな電力を送るための送電線を通す作業だという。


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