2024年4月30日(火)

BBC News

2024年4月10日

欧州人権裁判所(ECHR)は9日、スイスの気候変動対策が不十分だとして市民が国を訴えた裁判で、市民の主張を認める判決を言い渡した。

訴訟を起こしたのは、多くが70代の高齢女性たち。年齢と性別により、気候変動による熱波の影響を特に受けやすいと訴えた。

ECHRは、排出削減目標を達成するためのスイスの努力は、極めて不十分だったと結論付けた。

ECHRが地球温暖化について判決を下したのは今回が初めて。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんもこの日、裁判所の前で活動家たちに加わり、勝訴を喜んだ。

訴訟に携わったローズマリー・ウィルダー=ウォルティさんはロイター通信に対し、「まだ信じられない。弁護士に何度も『本当か?』と聞き直した」と話した。

「弁護士からは、考えられる限りで最大の勝利だと言われた」

トゥーンベリさんは、「これは気候変動にまつわる訴訟の始まりに過ぎない」と述べた。

「これが始まりだということは、我々はもっと闘う必要があるということだ。気候の危機においては、すべてが危険にさらされているので」

今回の判決には拘束力があり、イギリスを含む欧州46カ国の法律に影響を与える可能性がある。

世界各国の政府は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する目標を掲げている。

しかし、科学者や活動家たちは、その進展はあまりにも遅く、世界の気温上昇を工業化以前と比べて1.5度未満に抑えるという重要な目標を達成するめどは立っていないとしている。

「ロッキングチェアで編み物はできない」

ECHRは今回、スイス政府が「気候変動に関して欧州人権条約上の義務を怠り」、同条約8条の「私生活および家族生活の尊重を受ける権利」に違反すると結論付けた。

また、石炭石油、ガスなどの化石燃料を燃やした時に大気を暖める温室効果ガスについて、削減量を定量化していないなど、気候変動に取り組むための国の政策には「決定的なギャップがあった」と指摘した。

原告の「KlimaSeniorinnen(気候保護のためのシニア女性の会)」は、スイスで熱波が発生した際、家から出られず、健康被害を受けたと主張した。

9日に欧州連合(EU)の気候変動機関が発表した最新のデータでは、今年3月の世界の平均気温は、3月として観測史上最も高かった。これにより、月別の最高気温も10カ月連続で更新された。

KlimaSeniorinnenには2000人以上の女性が参加している。気候変動に関係した女性の健康を守るために、9年前に訴訟を起こした。

エリザベス・ステルンさん(76)はBBCニュースに対し、スイスの気候が、農場で育った子供時代からどのように変化したかを見てきたと語った。

この訴訟に熱心に取り組んできたことについて問われると、「私たちの中には、そういう風にできている人もいる。私たちはロッキングチェアに座って編み物をするようにはできていない」と答えた。

「私たちは統計的に、自分たちが10年後にはいなくなるとを知ってる。だから、今私たちがしていることは、自分のためではなく、私たちの子供たち、そして子供たちの子供たちのためだ」と、ステルンさんは付け加えた。

ロイター通信によると、スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は記者会見で、この件にコメントする前に判決文を詳しく読む必要があると語った。

「持続可能性はスイスにとって非常に重要だ。生物多様性も非常に重要だ。ネットゼロ(温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにする取り組み)の目標も非常に重要だ」

スイスの最大政党である右派のスイス国民党は、この判決をスキャンダルだと非難し、欧州評議会を脱退すると脅した。

しかし、同党は連邦内閣7人のうち2人を占めるに過ぎないため、脱退が実現する可能性は低い。

一方、スイスの放送局RTSによれば、スイス社会党はECHRの判決を歓迎し、政府はできるだけ早くこの判決を実行に移すべきだと述べた。

別の2件の訴訟は棄却

一方でECHRは、ポルトガルの若者6人とフランスの元市長が起こした別の2件の訴訟を棄却した。いずれも原告らは、欧州の政府が気候変動への迅速な取り組みを怠っており、原告らの権利を侵害していると主張していた。

ポルトガルの訴訟は、12~24歳の若者が、欧州32カ国の政府を相手取って起こしていた。原告らは、熱波や山火事の増加により、外で遊ぶことも学校に行くこともできず、気候不安に苦しんでいると主張していた。

しかしECHRは、この訴訟はまずポルトガルで判決が下される必要があると判断した。

フランスの元市長による訴訟は、フランス政府の対策が不十分だったことが、元市長の街を北海に水没させる危険をもたらしたと主張していた。

しかし、この原告は現在フランスに住んでおらず、ECHRは人権侵害の直接の被害者であることが証明できないとして棄却した。

(英語記事 European court rules human rights violated by climate inactio

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c2jdl214rmro


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