WEDGE REPORT

2018年8月15日

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吉村慎司 (よしむら・しんじ)

フリージャーナリスト・北海道国際交流・協力総合センター研究員

1971年鳥取市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。97~2010年日本経済新聞社勤務。11年ロシア・ウラジオストク国立経済サービス大学短期留学。現在は札幌市を拠点に、フリージャーナリストとして幅広い分野を取材している。公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)研究員も務める。

財政破たんで「限界自治」に陥り、非効率な行政サービスを抜本的に見直す夕張市。そのカギを握るのが、住居と町のコンパクト化だ。

 財政破たんした北海道夕張市の一角。無人となった集合住宅が、出入り口を野草に覆われたまま静かにたたずんでいる。街の衰退を象徴するかのようだが、この風景に、地域の今後の方策が示されている。これは、市が政策的に空き家にした建物だからだ。

集約が終わった真谷地地区の旧炭鉱住宅は、取り壊されることなく朽ちていく

 こうした意図的な空き家が並ぶのは、市南部にある「真谷地(まやち)」地区だ。明治時代後半から大正、昭和を通して多くの炭鉱労働者、その家族でにぎわった街も、1987年に閉山を迎えてからは人口が減少。幹線道路から離れ、近年は商業施設もないことから市内でも特に人口流出が激しい地区の一つとなっている。数千人いたともいわれる住民は、現在は150人強。平均年齢は70歳を超える。現在この多くが暮らすのは、かつて炭鉱会社が社員用に建てたアパート型の集合住宅だ。閉山後は市営住宅に転換され、建物の維持管理コストは市が負担している。

 人口減少にともなって、市営住宅の入居率も下がっていく。市によれば、2013年時点で真谷地の市営住宅入居率は33・3%。18戸入る一棟の中に3戸しか住んでいない例もあった。入居者が1人でもいれば棟の維持管理コストがかかる。市の支出削減のためには、特定の棟に住民を集約することであえて空き棟をつくり出すことが求められていた。

(出所)「夕張市まちづくりマスタープラン」を基にウェッジ作成 写真を拡大

 市は12年春に策定した街づくりマスタープランで「コンパクトシティの形成」を大きく打ち出し、中でも真谷地地区については住宅集約を明記した。全国各地で策定されるマスタープランの多くは努力目標程度の扱いにとどまるが、夕張市はすぐに真谷地の住宅再編に動き始める。だが市営であることを理由に入居者を強制的に動かせるものではなく、住民の理解を得ながら具体的な集約プランを立てる必要があった。

 住民が簡単に納得するはずもない。市が地区で集約方針の説明をしたのは12年9月。地区内の集会所に市職員と、市に協力する北海道大学教授らが足を運んだ。参加者の一人、地区の銭湯で働く石本ケイ子さん(77歳)はそのときの様子を、「みんなすごく反発したね。オレは絶対に動かん! って怒鳴る人もいた」と振り返る。矢面に立った当時の建設課長、細川孝司氏(61歳)は、「こちらの説明が至らなかったのか、感情的な部分を含めて揉めてしまいました。北大教授に進行役をしてもらったことすら、市は大学の陰に隠れて姑息じゃないかと叩かれたり」と複雑な面持ちで話す。

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