2024年5月1日(水)

BBC News

2024年4月18日

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員

アメリカの連邦上院は17日、アレハンドロ・マヨルカス国土安全保障長官の弾劾(だんがい)訴追を棄却した。上院が閣僚の弾劾裁判について判断を示したのは、約150年ぶり2回目のことだった。

野党・共和党が過半数を占める連邦下院は今年2月、マヨルカス長官が移民法の執行を拒否したほか、議会証言で虚偽の発言を行い、「公共の信頼」を損ったとして、同長官を弾劾訴追する決議案を賛成214、反対213の1票差で可決していた。

上院での裁判で弾劾となるには3分の2以上の賛成が必要となる。この日はほぼ党派に沿った採決で、民主党が過半数を占める上院はどちらの訴追も棄却した。

国土安全保障省は、上院の判断を歓迎。声明で、「弾劾を正当化する証拠も憲法上の根拠もなかったことが決定的に証明された」と述べた。

民主党院内総務のチャック・シューマー氏は、弾劾訴追棄却の採決に踏み切る前に、共和党議員に演説や手続き上の動議を提出させるプロセスを提案していた。

しかし、共和党がマヨルカス氏の訴追の是非を問う全面的な審理を要求して反対したため、シューマー氏は、1件目の弾劾訴追を棄却する採決を強行した。

「我々はそちら側に機会を与えた。あなた方は反対した。我々は前進する」と、シューマー氏は述べた。

共和党は採決を延期しようと何度か試みたが、51人の民主党議員によって阻止され、失敗に終わった。

最終的には、民主党議員全員が最初の弾劾訴追の棄却に賛成した。

共和党は議員49人のうち1人を除いて反対。アラスカ州選出のリサ・マコウスキー議員は棄権した。

このプロセスは2件目の弾劾訴追についても繰り返された。この時は、マコウスキー氏は反対票を投じた。

その後、上院は51対49で、弾劾裁判手続きを正式に終了させることを決議した。

与野党が互いを批判

共和党はこの弾劾裁判を利用して、ジョー・バイデン政権の移民政策の失敗と、近年アメリカとメキシコの国境を越えた、公的書類を持たない移民の急増に、世間の関心を集めることを狙っていた。

上院の弾劾手続きをわずか数時間で終わらせるというシューマー氏の迅速な行動に、共和党は憤りを表明。こうした動きは伝統に反し、今後の弾劾手続きの悪しき前例になると述べた。

共和党のジョン・ケネディ上院議員は投票前、ソーシャルメディアに「もし上院で完全な弾劾裁判が開かれれば、国境危機の証拠は、魚の内臓をえぐり出すようにバイデン政権をえぐるだろう」と投稿した。

共和党のドナルド・トランプ前大統領はその任期中、民主党が支配する下院に2回、弾劾訴追された。

その2回とも、完全な裁判の末に上院で無罪となった。

共和党は、トランプ氏の1回目の弾劾裁判の前に、シューマー氏が今回使ったのと同じ戦術で、トランプ氏に対する訴追を棄却しようとしていた。

一方の民主党は、今年2月に下院がマヨルカス氏を1票差で弾劾決議した際に、多数派の共和党が弾劾プロセスを乱用していると述べた。

シューマー氏は、「今回の弾劾裁判は、アメリカ史上、最も合法的でなく、最も実質的でなく、最も政治的な弾劾裁判だ」と主張。「弾劾は、政策の不一致を解決するために使われるべきではない」と述べた。

移民問題は大統領選の焦点

世論調査によると、移民問題は11月の大統領選挙と連邦議会選挙を前に、アメリカの有権者にとって最重要課題の一つとなっている。

民主・共和両党は今年初め、移民法の改革と国境警備のための資金増額に関して妥協する法案について、上院で交渉していた。

しかし、トランプ氏と共和党の保守派が、この法案は十分に進んでおらず、民主党が選挙戦の争点としてこの問題を和らげるためのものだと主張したため、この努力は失敗に終わっている。

共和党が、完全な弾劾裁判を認めないという民主党の決定を、民主党が移民問題に取り組みたくない証拠とするのは確実だ。

特に保守寄りの州で再選を目指す民主党議員に対して、選挙戦でこの問題を利用するかもしれない。

(英語記事 Alejandro Mayorkas: Senate votes to dismiss impeachment charges

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c3gl4zkg2v5o


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