2024年5月19日(日)

キーワードから学ぶアメリカ

2024年4月26日

中絶禁止を始めた州

 ドブス判決以降、人工妊娠中絶禁止を支持する共和党の政治家は、人工妊娠中絶を禁止したり、中絶の実施を困難にするよう、さまざまな試みをしている。例えばサウスカロライナ州のリンゼイ・グラハム上院議員は22年の秋に、15週目以降の中絶を禁止するための法案を提出した。

 また、23年にはバージニア州知事候補のグレン・ヤンキンは同州議会で共和党が多数を握るための戦略として15週以降の人工妊娠中絶を禁止することを公約に掲げた。だがそれらの試みはいずれも失敗した。

 中絶の権利を実質的に否定した州も存在する。まず、フロリダ州は22年に妊娠15週以後の中絶を禁止する法案を州議会が通過させ、ロン・デサンティス州知事の署名を得て成立した。

 その後州議会は妊娠6週以後の中絶を禁止する法案を新たに通過させ、23年4月にデサンティス州知事が署名している。同州最高裁判所は同法を支持し、24年5月1日に発効することになった。州最高裁判所は、今年11月の選挙に合わせて行われる住民投票で人工妊娠中絶の権利を州憲法で認めるか否かを問うことも認めている。

 また、アリゾナ州最高裁判所は、妊婦の命を救う場合を除いて人工妊娠中絶を全面禁止し、中絶に関与した医療関係者を懲役刑で罰するよう定めた1864年の州法が現在でも有効であるとの判決を23年4月に下した。同州では妊娠15週目までは人工妊娠中絶が容認されていたが、ドブス判決を受けて1864年の法律が復活することになった。ただし、この判決に対する反発が思いのほか強かったこともあり、アリゾナ州議会下院は4月24日に同法を廃止すると決議し、来月には上院で審議・決定される模様である

 各種報道によると、米国では、妊婦の命を救う場合や強姦などの場合を除き、人工妊娠中絶を全面禁止している州は現在14ある。その全てが共和党が優勢な州だが、アリゾナ州は接戦州であるため、注目が集まっている。

 なお、妊娠6週目以後の人工妊娠中絶を禁止している州には、共和党が優勢なサウスカロライナ州と接戦州のジョージア州がある。6週目では妊娠に気づかない人も多いため、実質的に中絶が全面禁止されたのと同じだとの評価もなされている。

一貫していないトランプの立場

 このような動きが出る中、人工妊娠中絶の権利を認めるべきだとする声は強まっており、中絶容認派の政治活動が活発になっている。22年の中間選挙で民主党が大方の予想を上回る票を獲得したのは、中絶の権利を認めるべきだとする社会運動が活性化したおかげだと指摘されている。また、ウォールストリートジャーナルが今月発表した世論調査によれば、接戦州の郊外地域に居住する女性の中では、人工妊娠中絶問題が最大の争点と位置づけられているとのことである。

 このような状況を受けて、民主党の政治家、とりわけバイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領は、トランプ政権が人工妊娠中絶をめぐる今日の問題を生み出したとして、トランプを批判する戦略を取っている。

 他方、トランプはドブス判決が出されたのは自らのおかげだと主張して共和党の岩盤支持層である福音派にアピールする一方、フロリダやアリゾナの動きがあまりにも行き過ぎていると発言することで、穏健派からの批判が自らに向かないよう試みている。


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