経済の常識 VS 政策の非常識

2014年3月3日

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 昭和恐慌によって疲弊した日本の農村では、娘の身売りが相次ぎ、それが現状を打破しなければならないという世論を強め、青年将校の憤激を招き、紆余曲折のあげく、日本は戦争にまで突き進んでしまったと、まことしやかに語られている。娘の身売りが相次いだという話は、日本史の教科書にも載っている。

 貧しい時代に娘の身売り─借金のかたに年季奉公で娼妓に売られるということはあった。しかし、昭和恐慌期にそれが急増し、しかも、継続的に増大していたということがあったのだろうか。

 確かに、1930年から40年までで娼妓の数は増えている。国勢調査によると、30年の芸妓・娼妓の数は合わせて12万5478人であったのに、40年には芸妓・娼妓・酌婦の数は15万342人となっている。つまり、40年の統計の酌婦が30年の統計では芸妓・娼妓に含まれているとして、この10年間で2万4864人増えている。それ以前の国勢調査では、これほど細かい職業別の人口の統計はないので、これが過去のトレンドと比べてどうであったのかは分からない。私がここで問題としたいのは、本当に農村で娘の身売りが継続的に増えていたのか。そんな証拠がどこにあるのかということだ。

 30年代の日本は、世界大恐慌からいち早く立ち直り、世界の中の繁栄の孤島だった。二・二六事件の起こる36年の前年の35年に、実質GNPは30年に比べて3割以上も増大していた(この数字は原田泰・佐藤綾野『昭和恐慌と金融政策』日本評論社、2012年、第5章のデータから計算)。芸妓産業とは、きわめて高価なサービス産業であるから、芸妓が増えたのは、日本が繁栄していたからかもしれない。

 日本は繁栄しており、首相を襲撃してまで解決しなければならない社会問題などなかった。しかし、現実にはなくても、あると思われていた(現在もそう信じられているのだから確かだろう)ことが日本を誤った道に導いた。現実よりも、どう思われているかということの方が大事なことは多々ある。

格差拡大の証拠はどこにもない

 小泉構造改革で格差が拡大したと度々言われる。しかし、そもそも格差が拡大したという証拠もないし、構造改革によってどのような格差がどれだけ拡大したかという分析などはどこにもない。

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