――少子化は、日本が抱える数多くの課題のなかで優先順位の高いテーマですか。
出口:この国の最優先課題は、マクロで考えれば人を増やすことに尽きます。
かなり前ですが、群馬県上野村の故・黒澤丈夫村長にご挨拶しに行ったときのことです。村長を10期40年、全国町村会長も務めた方です。
長く村長をやってきて何が一番嬉しかったか聞きました。すると、「去年、10年ぶりに赤ちゃんが2人生まれたことだ」。この子たちの母親は2人のフィリピン人女性だそうです。村長いわく、嫁いできた当時は、やけ酒を飲んだんだと。
「俺は海軍兵学校の生き残り。フィリピン戦も戦った。日本男児はここまで堕ちたのか。日本人の女性と結婚できないのか。でも……」
村長は涙を浮かべてこう続けました。
「元気な赤ちゃんの顔を見たら、いかに俺が阿呆だったかよくわかった。赤ちゃんを産んでくれてありがとう。これから俺は、このフィリピンの2人の花嫁に日本に来て本当に良かったと思ってもらえるよう、そのためだけに仕事をすると決めた」
――日本の人口は50年後に8000万人台まで落ち込むと推計されています。
出口:これから団塊世代300万人の労働力が減って、新社会人は100万人しか増えないんですよ。このことの恐ろしさは限界集落に行けばすぐわかります。
私の故郷、三重県の美杉村(現・津市)に帰ったら、網の中で人が生活しています。8000人くらいあった村の人口が半減し、サルとシカとイノシシの天国です。家や畑の周りを網で囲わないと生活できない。
数カ月前に美杉で聞いたのですが、道にシカが出てきたらどうすると思います? アクセルを踏み込んで駆除するそうです。1頭でも減らさないと自分たちが生きていけないと言うんです。
次は日本全体がこうなります。いまの人口構成ではなくて、高齢者が増える形で人口が8000万人になるんです。モンゴル帝国がペストで滅んだように、人口が急減して繁栄した文明はありません。