IPCC報告では、シナリオだけではなく、政策の評価もしている。
温暖化対策について、環境経済学は、排出量取引や環境税などの形で「炭素価格を設定する」ことが重要としてきた。これを受けて、京都議定書、CDM(クリーン開発メカニズム)、EU排出量取引制度(Emission Trading Systems, 以下ETS)が鳴り物入りで導入された。だがいずれも厳しい評価となっている。
「意図されたように成功していない」
京都議定書は「意図されたように成功していない」という手厳しい評価になっている。
京都議定書は、気候変動枠組条約(UNFCCC)が提供する目標を実現するための、最初の法的拘束力ある段階であった。だが、それは意図されたように成功しなかった(ただしこれに同意しない意見も多い)。京都議定書の締約国は、その合計での排出削減目標を達成したものの、議定書の葉支出削減効果は、達成しえたであろうものを下回った。理由は、不完全な参加と遵守、京都議定書が存在しない場合にあっても発生したであろう附属書I国(訳注:先進国のこと)の排出削減に排出権を与えたこと(訳注:ロシアなどに過剰な排出枠が割り当てられたことを指している)、直接過去十年間で急速に成長している非附属書I国(訳注:途上国)の排出量を規制しなかったことによる(「技術的要約」より)。
先進国間の排出権取引は
ほとんどおこなわれず
CDMについても評価は手厳しい。
京都議定書の下での柔軟性措置(訳注:CDM、共同実施(JI)、国際排出量取引(IET)の3種の排出量取引制度を指す)は、コスト削減の可能性はあったが、その排出削減効果はあまり明確ではなかった。CDMは 2013年7月時点において13億tCO2等価以上の排出削減クレジット(訳注:排出権のこと)を生成した。これは発展途上国における排出量削減のための市場を形成した。 だがCDMの排出削減の効果については一概に言えない(“mixed”)。懸念事項としては、プロジェクトの追加性が疑わしいこと、いくつかのプロジェクトにおけるベースラインの不適切な決定、排出量の漏洩(leakage)の可能性、最近の価格の低迷などがある。
所得の分配という面では、プロジェクトは限られた数の国に集中したため、不均一であった(訳注:とくに中国に集中し、アフリカには皆無であった)。一方で、JIとIETは、政府と民間の市場参加者の両方が取り組んだが、政府が排出権を販売することについての懸念を提起した。(「技術的要約」より)。