チャイナ・ウォッチャーの視点

ベトナム衝突事件を仕掛けた中国の「黒幕」

石 平 (せき・へい)  中国問題・日中問題評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒業。1988年に来日。神戸大学文化学研究科博士課程修了。2002年に『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)を著して以来、評論活動へ。近著に『私はなぜ「中国」を捨てたのか』(ワック)、『日中をダメにした9人の政治家』(ベストセラーズ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

»最新記事一覧へ

 要するに習近平氏は進退両難の窮地に立たされているのであろう。ことを起こしたのは石油閥の陰謀であることを承知しているから、ベトナムに対して強く出れば中国にとっての外交的トラブルがますます大きくなり国家主席としての自分の対処はますます難しくなる。それはまさに江沢民派・石油閥の思うつぼである。

しかしあまりにも弱い姿勢を示すと、それが逆に国内から「弱腰」の批判を招くこととなる。そして「弱腰」への国内批判はそのまま、石油閥にとっての習近平攻撃の材料ともなる。どの道、嵌められた習近平氏は大変不利な状況になるから、結局彼のとれる唯一の対処法はすなわちこの問題についていっさい態度を表明せず、外交部門に任せて事態の推移を見守ることであろう。

 もちろん、何も発言しないこの態度は結局、習近平氏の無能さと決断力のなさを国民に晒し出す結果となるから、やはり習近平氏の負けである。

突然姿を現した曽慶紅

 窮地に立たされた習近平氏が立ち往生している最中、得意満面で公の場に姿を現したのは、石油閥の陰のボスの曽慶紅氏である。中国の一部メデイアが写真付きで報じたところによると、公職から引退して以来いっさい姿を現したことのない曽慶紅氏は5月14日に突如、江沢民派の古巣の上海に現れた。表向きの活動の内容はある美術館の参観であるが、共産党政治局委員・上海市共産党書記の韓正氏と江沢民氏の子息で上海科学技術大学校長の江綿恒氏が同伴しているから、どう見ても単なる個人的な参観ではない。見事な政治的行動である。

 それでは、とっくに引退してめったに姿を現すことのない曽慶紅氏が一体どうして、このようなタイミングで突如姿を現したのか、ということになると、本稿が今まで記述してきたこの経緯からすれば、彼の意図するところは明らかであろう。決戦に臨む江沢民派・石油閥に対する激励であると同時に、相手の習近平氏に対する容赦のない警告でもあろう。

 そして14日の曽慶紅氏の登場はまた、10日ほど前から始まった件の「掘削断行」の黒幕はまさに自分たち石油閥であると自供したようなものである。この堂々ぶりは、曽氏がすでに習近平氏に対する抗戦を覚悟していることが分かる。今後、江沢民派・石油閥と習近平国家主席との権力闘争はますます激しさを増していくことは予想できるであろう。

[特集]南シナ海をめぐる中国とベトナムの衝突

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。

previous page
7
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「チャイナ・ウォッチャーの視点」

著者

石 平(せき・へい)

中国問題・日中問題評論家

1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒業。1988年に来日。神戸大学文化学研究科博士課程修了。2002年に『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)を著して以来、評論活動へ。近著に『私はなぜ「中国」を捨てたのか』(ワック)、『日中をダメにした9人の政治家』(ベストセラーズ)などがある。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍