2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2009年6月2日

――京都議定書の取り組みについてどう総括していますか。

(神津氏)京都議定書は完全に失敗でした。議定書に至る議論や97年の合意、その後の発効にもかかわらず、地球上のCO2は年々大幅に増え続け、この20 年間で約40%増となっています。実に我が国の総量の約7倍のCO2が増えてしまいました。議定書批准国のカバー率は世界の3割にも満たず、それ以外の国は大幅に排出を増やせる仕組みの上で、排出権取引という手法に頼ったことがこんなことをもたらしています。日本は京都議定書の議長国というメンツを守ることに汲々とし、EU主導の外交交渉の結果引き上げられた京都議定書の数値目標のつじつまを合わせるために、官民合わせて1兆円規模の排出権を購入することが避けられません。

 このお金は私たちが日々の労働の結晶として実現した付加価値です。いかがわしい排出権などではなく、この1兆円を直接的に途上国の環境対策に使えれば、もっと効果的かつ大量にCO2を減らせたのではないでしょうか。性懲りもなく、またも環境省サイドは「低い目標を出せば内外の批判を浴びる」「世界の笑いものになる」と言っているようですが、これでは京都議定書の過ちを繰り返すことになってしまいます。

――この問題に、連合をはじめとする労働者の側が、特に目だった議論や主張をしているようにはみえません。そのなかで神津さんが積極的に発言しているのはなぜですか?

(神津氏)連合でもさんざん議論して結論を導いていますが、どの選択肢を推すというところまでは言っていないのは事実です。国民レベル、労働者レベルで議論が盛り上がっていないのは、自分たちの労働条件、生活レベルに直結する話だという認識に至っていないからでしょう。温暖化対策といえば白クマがかわいそう、島が水没しちゃうというだけのイメージからまだまだ抜け出ることができていないのではないでしょうか。

 選択肢(3)では選択肢(1)に比べ失業者が11~19万人増加し、1世帯あたりの家計負担は500万円以上に達するという試算もあります。昨今の経済危機で大騒ぎしているのに、これだけ大きな負担に対し国民は理解できているのでしょうか。ポスト京都の議論は、京都議定書約束期間(08~12年)の比ではない影響があります。知れば知るほど、「これは一産業の問題ではない。国民全体に降りかかる大変な問題だ」と感じるようになりました。鉄はおろか、あらゆる産業に影響を及ぼし、雇用も捨て、大きな負担を背負うということに国民全体が合意できていて「高めの目標を掲げよ」というならわかります。しかし、現実はそこが曖昧になったまま、日本だけが首を締めてどうなるのでしょうか。


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