2024年4月20日(土)

研究と本とわたし

2014年7月17日

 そんなこともあって挫折して、文学部仏教学専攻へ移ったのですが、そこも精鋭揃いだった。大変苦労しましたけれども、振り返ってみれば、そうしたさまざまな経験の全てが積み重なって、現在に繋がっているのです。だから挫折する、ということはその人にとってとても良いことだというのが私の持論です。

 いろいろ辛い事があっても、その結果やり遂げた仕事は、死んだあとまで残っていく。途中のプロセスはどうあれ、あとで振り返った時に「これでよかった」と満足できれば、それが一番の幸せなのだということを、様々な科学者の人生について書かれた本を通じて知りましたが、それは私にとって大きな励みになりました。偶然提示された色々なものの中から、その時々で一番良いと思った選択をしてきて、全体として最良の形で人生を歩んできたのだ、というのが実感です。

――現在のご研究の醍醐味というのは、どういうところにあるのでしょうか?

佐々木氏:理科系から文科系に移りましたが、研究の手法は絶対に科学的な方法を取りたいと考えています。残されている膨大な文献情報を正しく判断して組み合わせることによって、その情報の奥にある歴史的な事実を解明するということですね。

 研究を進めていくと、あるとき「ああ、そうだったのか」と閃く瞬間があります。それまで数年間一つひとつ繫いできたバラバラの情報が、全部矛盾なくまとまって結晶化して、「なるほどすべてがこれでいける」ということがわかるのです。それは小さなレベルで起こる場合もあるし、非常に大きな問題が解ける場合もあります。

 私自身は、その大きな瞬間を2度経験しています。そういう瞬間を経験できたことは一生の喜びですね。いずれも30代でしたが、もう1~2回は経験したいなと思っています。

 科学はあらかじめわかっている目標に向かって研究を進めるわけではなく、地道な積み重ねの結果、ある時思いも寄らない発見や閃きが起きます。そういう科学を私も応援したいし、科学とはそうあるべきだと考えています。

――今後のご研究の大きなテーマや方向性について教えていただけますか。

佐々木氏:今言った大きな問題が解けたという経験の一つは大乗仏教の起源にかんすることですが、30代の終わりで経験したもう一つの発見を完成させるための研究を、現在も続けています。


新着記事

»もっと見る