中国メディアは何を報じているか

2014年8月12日

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弓野正宏 (ゆみの・まさひろ)

早稲田大学現代中国研究所招聘研究員

1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。

 中国による石油掘削作業の突然の中止で拍子抜けの感がある南シナ海情勢だが、これが中国の妥協によるものと結論付けるのは時期尚早だ。ただ中国にとっては国内状況が紛争どころではない状況にあることから、引き際を模索していたのかもしれない。

中国軍をめぐる昨今の「3つの問題」

 中国企業による南シナ海での石油掘削強行で中国とベトナムとの緊張が高まる中、海外華僑サイトには中越国境付近で中国軍部隊が移動する様子の写真も掲載されるまでになっている。こうした情報を裏付けるかのように常万全国防部長が国境付近に展開する部隊を視察して喝を入れた。中国メディアはベトナムとの係争をセンセーショナルに報じ始め、中越戦争(1979年)の再来かと懸念が高まった。しかし現在、喫緊の課題を冷静に考えれば戦争どころではない。その理由は大きく分け3つある。

 それは(1)徐才厚の党籍剥奪処分公表からも窺えるが、軍汚職は深刻で、取締りとそれに伴う権力闘争で人事異動が頻発し、指揮命令が不安定になっている事。治安維持部門を牛耳った周永康立件の影響もある。(2)現在、軍の機構改革が模索されており、多くの部門の整理統合や人員削減を含む改革は、兵士にとって今後の将来にも関わる深刻な関心事で気持ち的にも戦争どころではない事。(3)今回紹介したい点だが、退役軍人の不平不満が高まり、デモ頻発し、地方政府や軍の対策部門にとってこれ以上もめ事を抱えたくないだろうという事である。35年前にベトナムとの間で勃発した中越戦争に参戦した老兵士たちが待遇改善を求めるデモを行っており、その対処に中央、地方共に頭を痛めている。兵士からすれば今日の退役軍人の境遇は明日の自分たちを意味するから不安を拭いきれない。

 そこで退役軍人を巡る記事を2本紹介したい。一つは退役軍人の境遇を紹介するものとして『鳳凰週刊』誌6月号「大陸の軍に関わる権利権益擁護が困難に直面」という記事。もう一つは軍民の協力強化を訴える『光明日報』紙「軍民が手を携えて中国の夢、強軍の夢を築こう」という記事だ。二本目は典型的宣伝だが、一本目のような退役軍人の現状を見ると宣伝がいかに空虚か示す興味深い記事だ。

* * *

記事(1)【2014年6月 『鳳凰週刊』ネット版(抄訳)】

 5月の午後、王敏さんは大急ぎで四川省郫県郫筒鎮の派出所に向かっていた。自分の家の取り壊しを事件として捜査することを求めたが受け入れてもらえなかったため、もう一度行ってみることにしたのだ。王さんはQQ(中国のチャット)、ウェイボー(中国版ツイッター)を開設し、ハンドルネームを「頑固な軍人の奥さん」と名付け、軍人の妻として自分の家が立ち退きに遭った窮状をネットで訴え、権利擁護を求めている。

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