アトランティック誌記者のロバート・カプランが、7月27日付フィナンシャル・タイムズ紙で、中国の海洋進出による軍事的緊張よりも、中国経済が崩壊するリスクの方が世界にとってはより大きな問題である、と言っています。
すなわち、現在、中国に関する2つの論争がある。1つは、南シナ海・東シナ海における中国の侵略に関するもので、これは、経済のことをほとんど知らない海軍戦略家と外交官の間で行われている。もう1つは、中国経済の脆弱性に関する議論で、これは、海軍戦略と外交についてほとんど知らないエコノミストの間で行われている。
これら2つの議論は、本来どこかで交わるべきものだが、そうなることはほとんどない。前者の議論では中国を無敵のように見る一方、後者の議論では中国を内部崩壊の瀬戸際にあるように見ている。
第一の論争については、中国の軍事的台頭は、日本を消極的平和主義から脱却させ、ナショナリズムを再発見させた。その結果、東アジアの安定は当然のものとは言えなくなっている。
中国の海軍増強に関する議論は、これを阻止すべきだと考えるか、受け入れるべきと考えるかである。これらの議論は、双方とも、中国の軍事力は増強し続けるという前提に立っている。しかし、仮に中国が、例えば、内政的、経済的圧力を受けて、軍事力を増強できなくなった場合にはどうだろうか。
第二の論争は、中国経済はなんとか問題を切り抜けられると見るか、それとも、中国経済は崩壊すると考えるかである。
この議論で抜けているのは、中国が経済問題を切り抜けると言っても、それはどの程度なのか、またそれが民族的、社会的、政治的緊張にどのような影響を与えるのか、という点である。中国経済が数年間停滞するのと、いきなり内部崩壊するのとでは随分違いがある。
「切り抜け論」を支持する人々は、中国は困難に直面した際、政府の正統性を維持するために、海洋で、より攻撃的なナショナリズム的行動をとり、民族的・社会的緊張を封じ込めるだろうと見る。これに対し、経済が崩壊に向かう場合、多数派である漢民族とチベット、ウイグルとの間の民族紛争に火をつける可能性がある。こうした社会的、経済的圧力は、中国が国防費を増額し続けることには限界があることを露呈させるかもしれない。ここが南シナ海・東シナ海における問題と経済問題の交わるポイントである。中国経済が停滞した場合には海洋における更なる侵略的行動を導くが、経済が完全にダメになった場合には反対のことが起きる。要するに、これは中国経済がどれだけ弱いかという、程度の問題なのである。